エンジニアリングに最も大切なものとは!? 〜世界はそれを「愛」と呼ぶんだぜ〜:EETweets 岡村淳一のハイテクベンチャー七転八起(最終回)(1/2 ページ)
エンジニアリングで重要なことは、ひと言で言うと「愛」だ。半導体分野なら、どれだけ愛のある回路なのか? 愛のあるレイアウトなのか? 愛のあるプロセスなのか?ということ。エンジニアリングに時間をかけて、対象の気持ちになってあげることが大切。
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皆さんこんにちは。早いものでこの連載を始めてから1年がたちました。そろそろ連載のネタ切れ?ということで、今回で最終回とさせてもらうことになりました。我ながら、いつまでも拙い連載を読んでいただいた読者の皆さんには大変感謝しています。連載は終わりますが、小生が立ち上げたハイテクベンチャーの戦いはまだまだ続きます。小生のTwitterのつぶやきが、皆さん自身や皆さんの周囲から日本発の半導体ベンチャーが生まれるキッカケになれば大変うれしく思います。
振り返ると、電気分野のエンジニアになるのが子どものころからの夢でした。その夢の先にハイテクベンチャーの起業というチャレンジが控えていたのは全くの想定外でしたが、「エンジニアでありたい!」という気持ちで歩んできた道の先に「ハイテクベンチャーの起業」という扉が自然と現れたのだと感じています。想定外ではありましたが、もしかすると必然だったのかもしれません。これからも、日本発のハイテクベンチャー企業だと自信をもって胸を張れるまで、精いっぱい頑張ります。
さて、最終回のテーマは「愛」です……って文字にするとすごく恥ずかしいのですが、エンジニアリングにはすご〜く大事なことだと思っているので、最終回のお題にとっておいたものです。ええ〜って引ないで、最後までお付き合いいただければ幸いです。
エンジニアリングで重要なことは、ひと言で言うと「愛」だ。半導体分野なら、どれだけ愛のある回路なのか? 愛のあるレイアウトなのか? 愛のあるプロセスなのか?ということ。愛のないものは、ガサツで、粗暴で、嫌われる。エンジニアリングに時間をかけて、対象の気持ちになってあげることだよ。
いつのころからか自分でも分からないのですが、「愛のない回路だなぁ〜」とか「愛のないレイアウト描くなよ〜」、「愛のない仕様だよな〜」というのが口癖になっています。「愛」ってなんでしょうか? 人間の恋愛で言えば、「好き」という感情の上位概念として「愛」が定義されていますよね。エンジニアリングでも、「好き」という感情の上位概念として「愛」があるのだと小生は思っています。つまり、子どもの時からモノをいじるのが「好き」だという気持ちを研ぎ澄ませた高みが、エンジニアリングの「愛」になるのです。
エンジニアリングは究極の真理を求める学問ではなく、時代や環境に応じた最適な解決策を見つける作業ですので、周辺状況と解決策の間には常に距離が存在します。周辺状況が変化したときにも対応できる解決策を設定するには、周辺状況と解決策の間にある程度の距離を確保することが必要です。
この距離を設計マージンや製造マージン、サービスなら顧客満足度だと定義してもいいでしょう。この距離を十分に取り過ぎることは、柔軟性を高めることになりますがコスト高となり、製品は市場で売れません。一方で距離を短くし過ぎると、製造マージンが無くなったり、サービス不足となり、製品はやはり市場に受け入れられないでしょう。エンジニアリングとは周辺状況と解決策の間の最適な「間合い」を見つける作業とも言えますね。
「愛」って掛け過ぎても破綻する。回路マージンを取り過ぎた消費電流の大きな回路設計だと思えばよい。「愛」のない仕事はガサツだ。通り一遍にチェックしただけの回路設計は、実際に作ってみるとマージン不良だらけだ。仕事を好きにならないと「愛」は育めない。どんな仕事にも愛情は必要だよね。
小生の言う「愛」って、この「間合い」のことだと言い換えてもいいでしょう。なぜ、間合いを愛って言うのかって? それは間合いを測るには、周辺状況と解決策の両方を詳しく理解していなければならないからです。男女の恋愛が愛情に変わるためには、双方がお互いのことを深く知る必要がありますよね。
例えば、「回路設計が好き」とか、「プログラミングが好きです」っていう学生さんがいます。実際に任せてみると確かに仕事は早いし、出来栄えもまぁまぁだけど、温度を変えたら動かないとか、仕様で定められた以外の操作をしたらハングアップしてしまうことがよくあります。つまりこの場合、解決策としての回路だとかプログラミングはよく知っているけれども、周辺状況である動作温度範囲とか利用者の不慣れな操作方法への理解が足りない。エンジニアリングのプロフェッショナルになるなら、対象が好きだという片思いだけじゃダメなのです。
ファウンダリービジネスもしかり。腰かけ同然でファウンダリーサービスだと言っても、そこには顧客である設計者に対する「愛」がない。社内の設計者と同じ感覚でサービスだと言っても、外部から見れば粗雑な食事にしか見えない。愛情という感覚なしにサービスだと気取っても顧客が振り向くはずがない。
一方で「過保護」な愛も問題です。例えば、高いレベルの品質保証を求め過ぎたり、周辺状況と解決策の間に十分過ぎる距離を確保しようとすることで、開発期間が長くなったり、新たな技術開発アイテムが必要になったりしてはいないでしょうか? 製品全体に責任を持って見通す人材がいなくなると、関連する複数の部署それぞれで必要な間合いを取ることが重なってしまいます。本来必要なマージン以上を確保した過保護な製品を開発してはいないでしょうか?
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