テレビをスマホで撮るとクーポンが届く、映像を媒体に使う富士通の通信技術:CEATEC 2012
映像の中に人間が知覚できない方式でデジタルデータを埋め込んでおき、スマートフォンのカメラでその映像を撮影するとそのデータを受け取れるという技術である。例えばテレビに流れるCMに視聴者がカメラを向けると、クーポンを取得できるといった応用を想定する。
富士通研究所は、テレビやデジタルサイネージ(電子看板)などに表示する映像を媒体として使う新方式の情報通信技術を開発し、「CEATEC JAPAN 2012」(2012年10月2〜6日、幕張メッセ)でデモを実演した。映像の明るさに、人間の目が認識できない程度の変調をかけることで情報を埋め込む。その映像を専用アプリを搭載したスマートフォンのカメラで撮影すると、情報を取り出せるという仕組みだ。2012年6月に発表済みの技術だが、一般公開は今回が初めてだという。
例えば、テレビCMに広告主があらかじめ情報を埋め込んでおき、視聴者がテレビの画面にカメラを向けると、そのCMに関連したクーポンやWebサイトのURLを取得できるといった応用を想定している。テレビなどの表示装置側にも、スマートフォン側にも、特殊なハードウェアを追加する必要はない。市販の一般的な製品がそのまま使える。前述の通り、表示する映像を加工するとともに、スマートフォンに専用アプリを搭載するだけで済む。また、情報を埋め込んだ後も、映像そのものには人間が認識できるような変化や劣化は一切生じない。
デモの様子である。テレビの画面を2つに分割して、向かって左側には通常の映像を流し、右側には新方式で情報を埋め込んだ映像を流している。映像には富士通のテレビCMを用いた。右側の方の画面にスマートフォンのカメラをかざすと、CMに関連した情報がスマートフォンに表示される。
同様の機能は、映像中で2次元コード(QRコード)を表示することでも実現できる。ただし、「広告主にとっては、2次元コードが映像の貴重なスペースを消費してしまうという課題がある。消費者側にも、テレビに近づいて撮影しなければならないという難点があった」(富士通研究所の説明員)。これに対し新方式は、テレビから2〜3m離れた位置から撮影しても情報を受信できるという。
映像に情報を埋め込む手法はこうだ。人間の目に認識できないほどの微小な明かり(輝点)を数多く映像中に散りばめておく。その明かりの数を増減させることで、画面全体の明るさを、やはり人間の目が知覚できないような緩やかなスピードで滑らかに変化させる。これにより「比較的明るい状態」と「比較的暗い状態」を作り出す。そしてこの2つの状態の遷移パターンを制御することで、「0」と「1」の2値の変調をかける。このように画面全体を使って情報を送る方式なので、2次元コードとは異なり、テレビとの間に距離があっても問題ないというわけだ。
ただ、この方式で映像に重畳できる情報の速度は16ビット/秒と極めて低い。そのため富士通研究所は、広告主が消費者に伝えたい「情報本体」をこの方式でスマートフォンに送信するのではなく、この方式では16ビットの「ID番号」のみをスマートフォンに送るというシステム構成を想定している。後は、スマートフォンのアプリが取得したID番号をサーバに送ると、そのID番号に該当する「情報本体」がサーバから高速回線経由でスマートフォンに返されるという仕組みである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.