低音域まできっちり再生、“オールゴム”の薄型スピーカーを東海ゴムが出品:CEATEC 2012
ゴムを母材とする材料だけで音波の発生部分を構成したスピーカーである。一般的な動電型スピーカーよりも薄く軽量な上、従来の薄型・軽量のスピーカーでは減衰してしまっていた低周波の音域でも高い出力特性が得られるという。スマートフォンに内蔵したり外付けするスピーカーの他、自動車の車内騒音軽減への応用も狙う。
ゴムを使った各種産業部材を手掛ける東海ゴム工業は、音波の発生部分をゴムを母材とする材料だけで構成したスピーカーを開発し、「CEATEC JAPAN 2012」(2012年10月2〜6日、幕張メッセ)に出品した。一般的な動電型スピーカーよりも薄く軽量な上、従来の薄型・軽量のスピーカーでは減衰してしまっていた低周波の音域でも高い出力特性が得られるという。カーボン系の材料を添加して導電性を持たせた同社独自のゴム材料「スマートラバー」を応用した。こうした“オールゴム”のスピーカーの開発は世界初だと主張する。
同社のスマートラバーは、電圧を印加すると伸びるという特性がある。すなわち一種の圧電素子として機能する。「セラミックを利用した圧電素子とは異なり、伸縮可能な柔軟性というゴムならではの特長がある」(同社)という。これまでも、人工筋肉材料として介護支援ロボットなどへの応用に取り組んできたが、今回、新たな応用としてスピーカーを開発した。
具体的には、スマートラバーを使った2枚の電極の間に、絶縁ゴムで作る誘電層を挟み込んだ構造を採る。この構造体が1個の圧電アクチュエータ素子として機能する仕組みだ。実際にはこの圧電アクチュエータ素子を2個組み合わせて、交互に伸縮させることで音波を生み出す、いわゆるバイドライブ方式を採用した。
こうして実現したオールゴムのスピーカーは、磁気を用いないため、磁石や磁気回路が不要で、軽量化や薄型化が可能になる他、柔軟性があるので組み込む筐体の設計自由度が高く、場所を選ばずに使える利点があるという。
展示した試作品のサイズは、面積が115×75mmで厚みが7mm。重量は35gである。デモでは、タブレット端末が出力するオーディオ信号をこのスピーカーで増幅して来場者に試聴させていた。「厚みが同等の既存の薄型スピーカーに比べて、低周波まで幅広い音域をカバーできる特長がある」(同社)。ただし今回は、出力音圧レベルや周波数特性の具体的な仕様は明らかにしなかった。「採用を検討するユーザーに対しては、検討の度合いに応じて具体的な数値情報を共有する」(同社)。
なお、スマートラバーを利用したこのスピーカーは、一般的な動電型スピーカーと駆動方式が異なるため、専用のドライバが必要になる。これについては、同社が自社で開発済みであり、製品化の際にはスピーカーとまとめたユニットとして販売することも考えているという。
ゴム材料ならではの課題もある。「ゴムは無機物ではないので、経年劣化があり、耐久性は比較的低くなってしまう」(同社)ことだ。従って、スマートフォンやタブレット端末など、消費者が比較的短い年数で買い替えるような機器の方が採用しやすいとした。
ただし同社は、高い耐久性が求められる車載用途も視野に入れており、この課題にも今後取り組む考えだ。車載用途では、車内に入り込む路面の騒音を打ち消すノイズキャンセラーに、このオールゴムスピーカーを応用することを狙う。騒音をマイクで拾い、逆位相の音波をこのスピーカーで発生させることで騒音を軽減する。「電気自動車では、エンジンの騒音が無いので、ロードノイズの軽減が静音性を確保するための焦点になっている。オールゴムのスピーカーは形状の自由度が高いので、車内の天井部などに埋め込みやすいというメリットがある」(同社)。
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