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論文や特許明細書の英語は“読まない”で“推測する”「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(8)(2/3 ページ)

英語で記載された文献を、短時間でいかに手を抜きつつ理解するか、あるいは理解したかのように自分を納得させるか。さらには、上司や同僚に『あなたが理解した』かのように誤認させるか――。実践編(文献調査)の前半となる今回は、上司の「気まぐれ」で依頼された文献調査に立ち向かう方法を紹介しましょう。

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 少々長い事例説明になってしまいました。私が、上記の事例で言いたかったことは、「英語の文献調査は、状況に応じて戦略的かつ動的に変える必要がある」ということです。例えば、上記のようなアリバイ的な調査ごときを真面目にする必要はありません。

 もっと率直かつ簡単に言いましょう。私は「手を抜け」と言っているのです。

 しかし、英語の文献調査を単に「手を抜く」だけでは、意味のある調査報告リポートを提出できません。我々は、「英語に愛されないエンジニア」としてのプライドにかけて、そのようないい加減な仕事をすべきではありません。

 そこで今回は、英語を読む量を最小限にしながら、英語の文献調査を有用に行う方法について解説します。具体的には、経営やマーケティングの分野で重視されている「仮説検証法」を使って、英語の文献の一部から記載内容の全体を推測し、推測した内容の妥当性を検証する方法を提唱します。

英語の文献調査は、ここが違う!

 さて、どのような仕事でも、仕事を始める前にはおおよその見積もりを出すのは当然のことですが、英語の調査文献の場合は、普通の仕事と違って考慮しておく事項が2つあります。

図
写真はイメージです。

 第一に、「英語の技術文献を読むことは『大変つらい』」ということです。だいたい、技術文献の調査というのは、日本語であっても(自分に興味がある特定分野を除けば)楽しいものではありません。これを「楽しい」と感じる方は、この連載を読む必要のない方でしょう。調査対象である英語文献に、「英語」という1つ目のフィルタが掛かり、さらに「英語に愛されない私」という2つ目のフィルタが覆いかぶさってしまう。このような二重のフィルタを介して出力された調査結果が、正確かつ完璧な報告になる訳がありません(図1)。

 第二に、「調査結果が、事後的にチェック&レビューされる可能性は極めて低い」という点です。なぜでしょうか。多くの人にとって英語を読むことは「面倒くさい」からです。「面倒くさい」からこそ発生した業務に「チェック&レビュー」が入る訳がありません。つまり、たいていの場合、あなたが提出した調査報告が「最終報告書」となります。

 これは、あなたが若手エンジニアである場合には、大変恐いことだと思います。もし、あなたが間違った内容の報告書を提出して、会社の上司や幹部が誤った判断を下したらどうなるでしょうか。もしかすると、会社経営を危機に陥れるかもしれません。しかしですね、あなたに責任の一端はあるでしょうが、全部ではありません。あなたに命令を発令した組織全体に最終的な責任があるのです。あなた一人が抱え込む必要はないのです。これは非常に重要なことですので覚えておいてください。

図
図1 英語の調査文献で考慮しておくべき2つの事項 調査対象である英語文献に、「英語」というフィルタが掛かり、さらに「英語に愛されない私」というフィルタが覆いかぶさる点、そして調査結果が事後的にチェック&レビューされる可能性は極めて低いという2つの点が、通常の業務とは異なります。

事前準備で明確にすべき、5つのポイント

 上記の第一、第二の考慮すべき点を踏まえた上で、英語の文献調査に立ち向う事前準備を述べます。大切なポイントは、英語の文献を調査する際の「背景と目的」、「主体」、「客体」、「時期」、「アウトプット」を明確にすることです。

(1)背景と目的

英語の文献調査の目的を事前に理解しておく必要があります。例えば、顧客の要求であれば、「手を抜く」という戦略は最初から排除します。いいかげんな報告書を提出して顧客に損害を与えれば、損害賠償請求の対象にもなりかねません。

(2)主体

誰が、どのような理由で、英語の文献調査を命令したのかを調べ出しておく必要があります。「幹部や上司の気まぐれ」や「他社製品または研究開発の単なる動向調査」と、「製品開発のマーケティング」、「製品差別化のターゲティング調査」では、意味が全く異なることは明らかです。

(3)客体

英語文献の種類のことです。マニュアル、仕様書、学術論文、特許明細書といった文献の種類ごとに調査の性質は、ガラっと変わってきます。また、そのボリュームも問題となります。例えば、「1つのマニュアルを精読する」というケースもあれば、「1部40〜50ページにも及ぶ、合計200以上の特許明細書から技術トレンドを調査する」というケースもあります。これを、同じアプローチで調査することなどありえません。

(4)時期

締め切り、納期のことです。十分な時間があれば、広範囲かつ質の高い調査が可能になるのは当然ですが、たいていの場合そのようなぜいたくな調査は行えません。この手の調査は突然命令され、日常業務のスキマ時間を使うことになります。締め切り、納期までにどれだけの時間をひねり出せるかを、あらかじめ試算しておく必要があります。

(5)アウトプット

調査報告書のことです。完全な日本語翻訳文が必要なのか、あるいはサマリーを要求されているのか、または箇条書きされた概要が必要なのか、アウトプットの形態ごとに取り組み方が異なります。

(6)その他

その調査対象に対して専門性を持っているかどうか、あるいは英語の文献調査をさらに押し付けられる同僚や部下がいるか、報告書の提出を「うやむや」にできる相手かどうか……なども重要な要素です。

 特に、「幹部や上司のきまぐれ」から発せられた場合は、次回の定例会議で彼らが忘れている方に賭けてみる、というのは価値ある戦略です。もちろん、リスクは高いです。しかし、英語の文献調査で苦労しないためには、その辺りもよく見極めておく必要があります。

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