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“スーパーエンジニア”育成、そのヒントいまどきエンジニアの育て方(13)(2/2 ページ)

エンジニアにとって、自分の専門性を高めるための勉強は欠かせません。ですが、エンジニアとしてもっと上を目指すのであれば、専門以外の知見を広げることが非常に重要になります。

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専門以外の知見を広げる=専門性が高まる

 技術以外に関心を持つこと、すなわち、専門以外の知見を持つということは、結果的に専門性を高める効果があります図2をご覧ください。

 まず、図2の右側をご覧ください。これは3つのスキルと言われる“コンセプチュアル・スキル(概念化)”、“ヒューマン・スキル(対人)”、“テクニカル・スキル(業務遂行)”を、「トップ」「ミドル」「ロワー」の3つの階層に応じて、スキル比率がどう変わるかを示しています。それぞれの説明は図中に示していますので参考にしてください。


図2 経営、前工程、後工程を知る(画像はクリックで拡大)

 若手エンジニアは一番下の「ロワーマネジメント(現場層)」に位置します。専門性が含まれる業務遂行能力を最も必要とするので、“テクニカル・スキル”の比率が高くなります。「トップマネジメント(経営層)」に近づくにつれて、専門性よりも、概念化(物事を大局的にとらえる、問題解決力、論理思考など)である“コンセプチュアル・スキル”が求められるようになります。

 エンジニアは一般には論理的に物事を考えることが得意な人が多いですが、全体像をつかむ、鳥瞰(ちょうかん)的に見る、あるいは大局的に物事を捉えることは苦手だという人は、少なからず存在します。“論理的思考力”を持っていても、“概念的”ではない人もいることになります。特に探求心が極端に高いエンジニアは、1カ所でも引っ掛かることがあるとそこで止まってしまい、どんどん深く考え始めてしまいます。先に進むことができなくなって、結果的に全体にまで気が回らなくなり、いわゆる、「木を見て森を見ない」ような状態になります。コンセプチュアル・スキルが高い人は、「木も見て森も見る」ことができます。ただし、だからといって、意思決定がいつも正しいかどうかは別問題です。

 一般にミドルマネジメント層には、バランス良く各スキルが求められます。しかし、開発部門の場合は、テクニカル・スキル領域が大きい状態で管理職、マネジャーになるケースが多く見られます。

 川崎テックデザインの田中課長は、こうしたケースの1人です。もちろん、中には「俺は定年までずっと技術者でいたい」という人もいますから、人事制度などで“専門職”とする仕組みがあるならば、“生涯技術者”として生きる道もあるでしょう。

3つの矢印

 次に図2の左側をご覧ください。矢印が3つ書いてあります。

 開発・技術から「経営」へ、「前工程」である企画やマーケティングへ、そして「後工程」である製造や営業という3つの流れを指しています。ここで後工程に営業を入れているのは、M.E.ポーターのバリュー・チェーン*1)においては、「マーケティングと販売」が物流の後に位置するためです。基本的に営業というのは、受注を取ってくるところから製品納入後のフォローも含めると、顧客と接点がある場面、すなわち前工程にも後工程にも存在することになります。

*編集注1)製品/サービスを顧客に提供するという企業活動において、調達や開発、製造、販売などの業務が一連の流れの中で、順次価値/コストを付加していき、それによって顧客に向けた最終的な価値が生み出されるとする考え方。詳しくはこちらから。

 ただし、先述した“スーパーエンジニア”には製造や営業は含まれていません。したがって、“スーパーエンジニア”とは、「製造ができるエンジニア」や「営業ができるエンジニア」という意味ではありません。どのような過程で製造が行われているのか、営業プロセスはどのように成り立っているのかを知るだけで、エンジニアは十分です。

 大事なことは「前工程」の企画まで身に付けると、“スーパーエンジニア”のIV(企画・マーケティングができるエンジニア)になるということです。同じく、縦上方向の「経営」まで身に付けると“スーパーエンジニア”のV(経営が分かるエンジニア)になります


 さあ、佐々木さんに対して、「技術以外の関心を持たせる作戦」に出ようとしている田中課長。前工程、後工程、経営の3方向のうち、どこから攻めるつもりでしょうか。次回、お伝えします。

Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。



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