「仮説検証方式」で調査時間を1/10に短縮しよう:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(9)(1/3 ページ)
前回、英語の文献調査では可能な限り「手を抜く」ことを皆さんに提言しました。英語文献の調査には、要約、結論、図表の記載を基に全体の内容を「仮説」として推測し、他の記載の部分でその仮説を検証・修正する「仮説検証法」が非常に有効です。実践編(文献調査)の後半では、その方法をご紹介します。
われわれエンジニアは、エンジニアである以上、どのような形であれ、いずれ国外に追い出される……。いかに立ち向かうか?→「『英語に愛されないエンジニア』」のための新行動論」 連載一覧
前回は、英語の学術論文や特許明細書を使った文献調査に立ち向かう基本的な考え方(戦略)を紹介しました。
今回は、「英語で記載された文献を、いかに短時間で手を抜きつつ理解するか、あるいは理解したかのように自分を納得させるか……。さらには、上司や同僚に『あなたが理解した』かのように思わせるか(誤認させるか)」という具体的な手法を解説します。「仮説検証法」を使って、英語の学術論文や特許明細書といった文献の一部から記載内容の全体を推測して、その内容の妥当性を検証する方法を身に付けてもらいます。
本題に入る前に私の体験談を、一つ挙げましょう。10年ほど前の米国赴任中に、米国への特許出願に対して米国特許庁の審査官から拒絶理由通知をもらったことがあります。それ自体は別に珍しいことではありません。
驚いたのが、「お前の発明は、ちっとも新しくないよー(新規性違反)」、または「お前の発明は、全然難しくないよー(進歩性違反)」の証拠に使われた英語の引用文献の「数」です。
一般には、せいぜい2つか3つ、多くても5つくらいの引用文献であるのに対して、この時はなんと「20」もありました。しかも、全部、米国特許出願……、つまり「英語の文献」でした。私は、泣きながら引用文献を読み、拒絶理由に対する反論案を一つ一つ作りました。「あれ?」と気付いたのは、半分くらい反論を作り終えたころでしょうか。
――審査官の述べている拒絶理由のほとんどが、論理破綻している
「20」もの引例文献の拒絶理由の全部に対して、ラクラクと反論できてしまうのです。そして、ついに私は一つの結論に至りました。「この米国特許庁の審査官、私の発明も、引例文献の発明も全く理解していない」というより、「一度も読んでいない」。
審査官は、拒絶理由をきちんと論理付けするのが「面倒」だったので、適当なキーワードを使ってサーチした引例の文献を、私に叩き送ってきただけだと確信するに至りました。「20」もの英語の引例文献をぶつければ、発明者(私)がひるんで、拒絶に服すると考えたのかもしれません。多分、英語の苦手な日本人のこと、反論する気力を失うだろうと思ったのでしょう。
「日本人をなめんなよ、このヤロウ……」
私は、社内の知財部に助けてもらいながら、拒絶理由を片っ端から論破し、最後には米国特許権を得ることができました。英語がネイティブの審査官を多く擁する米国の行政庁ですら、こんな「手を抜いた」対応をしているのです。彼らは毎日膨大な数の発明を審査しなければならないのですから、これは仕方がないことだと思うのです。
私の体験談から分かることは何でしょうか。米国特許庁の審査官の場合、英語に精通している分だけ、我々よりはるかにマシだと言えますが、「(英語の)文献の全文を読んで完璧に理解すること」と、「その業務を所定の時間内に完遂すること」は、完全なジレンマの関係にあることです。
さて、この連載で前回に私は、「文献調査の手を抜く」ことを皆さんに提言しました。その理由は、私たちが「面倒だから」、「楽をしたいから」だと申し上げました。しかし、これはその効果の一面にしかすぎません。「手を抜く」ことの本質的な効果は、定められた時間内に業務を完遂することにあります。我々が英語の文献調査で「楽をしたい」という想いと、会社が「期限までに調査結果が欲しい」という想いは、利害が一致しているのです。つまりこれは、“Win-Win”の関係なのです。
では今回は、(1)楽をしつつ、(2)所定の時間内で、加えて(3)それなりの品質を維持したまま、英語の文献調査を完遂させるという ―― 「3週間でネイティブと会話ができる」という内容よりも、はるかに怪しくて、どこまでもうそくさい ―― 方法の説明に入ります。
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