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「仮説検証方式」で調査時間を1/10に短縮しよう「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(9)(3/3 ページ)

前回、英語の文献調査では可能な限り「手を抜く」ことを皆さんに提言しました。英語文献の調査には、要約、結論、図表の記載を基に全体の内容を「仮説」として推測し、他の記載の部分でその仮説を検証・修正する「仮説検証法」が非常に有効です。実践編(文献調査)の後半では、その方法をご紹介します。

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上司への報告は「思い込みの強さ」の勝負

 英語論文や特許明細書を使ったトレンド調査の報告書をまとめた後に待ち構えているのは、幹部や上司、同僚への報告です。今回の趣旨である、「英語文献を理解したかのように自分を納得させるか……。さらには、上司や同僚にあなたが理解したかのように思わせるか(誤認させるか)」について説明します。

 ここから先は、「技」ではなく「心」の問題、つまり「思い込みの強さ」の勝負になります。上司への報告は書面で提出するとしても、上司から口頭で質問を受けることもあります。上司は、あなたの調査の結果で不明な点や、矛盾点を指摘してくるはずです。そのような場合、以下のことを思い出して下さい。

 まず、あなたに英語の文献調査を命じた上司は、その文献を「読んでいません」。比してあなたは、少なくとも「要約」と「結論」だけは読み込んだ上で、曲りなりにも「仮説の結論」を導出するに至っています。この差は絶対的に大きいのです。 さらに、あなたは「背景」や「図表」を使って、その仮説の裏取りも完了しています。あなたは「論文の全文を読んでいない」だけです。これは、実に些細(ささい)なことなのです。

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 次に、「私の調査に不備はない」と、自分自身で思い込んで下さい。ここに不安を感じてはなりません。仮にあなたの出した「仮説」と、著者の主張に齟齬(そご)があったら、「著者の方が間違っている」と、そこまで思い込んでいただきます。このとき具体的には、あなたの取り得る戦略は2つあります。

(1)第一の戦略

自分が著者であると思い込む戦略です。不明点、矛盾点に対して「著者」ではなく「あなた」が「あなたの考え」で答えるのです。不明点を指摘されたら、仮にそれについてあなたが一行も読んでいなくても、 淡々と「自分の意見」を述べれば良いのです。著者は「あなた」なのですから。

(2)第二の戦略

著者(論文の執筆者など)を悪者にする戦略です。不明点、矛盾点を指摘されたら、「その指摘についての記載は見つけられませんでした」と答えましょう。実際は、あなたが読んでいないところに、その記載はあったのかもしれませんが、あなたが読んでいない以上、「記載が見つけられなかった」ことは事実です。うそはついていません。「本当に読んだのか?」と突っ込まれたら、「ではダブルチェックをしてもらえますか。私も安心できます」と、上司に仕事を突っ返せば良いのです。

 絶対に言ってはならないせりふは、「もう一度、読み直してみます」、「その点については私も不安です」などという、弱気の対応です。これでは、「手を抜く」という、今回の趣旨が台無しになってしまいます。

結構使える「仮説検証法」

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写真はイメージです

 最後に申し上げておきますが、これらの「英語に愛されないエンジニア」のための英語の文献調査方法は、結構使えます

 私は、この「要旨」+「結論」+「仮説検証法」を使った英語の文献調査で、英語を読む量を1/10程度にしつつ、ここ20年間を凌いできました。最近は、翻訳エンジンの精度が向上したことで、さらにラクになってきました。現時点において、この方法でただの一度もトラブルになったことはありません。

 これは、「運がよかった」のではなく、やはり有効な手段であるからだと思うのです。もちろん、「全文を読まないと自信が持てない」と言う方に、「そんなことは止めろ」などとは申しませんが、現実の業務において、そのような真面目な対応をしている人は、私が思うに、多分、この業界にはいません。

 と、書いたところで、編集さんから以下のコメントが入りました。以下、無修正で全文引用します。「この段落に、今回の『仮説検証方式」が有効なケースとそうではないケースをもう一度、まとめてください。どんな場合にも使えるわけではなく、『顧客からの要求であれば、手を抜くという戦略は最初から排除されます』ということを、念のため再度触れてください」。

 うん、うん、その気持ち、良く分かります、編集さん。「EE Times Japanに掲載された連載の言う通りに調査報告書を出したら、顧客との契約を打ち切られた」などとクレームを言われた日には、目も当てられない結果になります。私は連載打ち切り程度で済むかもしれませんが、損害賠償請求の裁判の被告は、多分私ではなく、EE Times Japan 編集部になるでしょう。なぜなら、私(江端智一)を逆さに振っても、一円もお金が出てこないからです(※ 編集部注:編集部もお金はありません)。

 では、今回の内容をまとめます。

(1)英語の文献を調査する場合、その着手前に調査目的などを調べて、あらかじめどの程度「手を抜けるか」を明らかにしておきましょう。

(2)英語の文献は、要約、結論、図表の記載を基に全体の内容を「仮説」として推測し、他の記載の部分でその「仮説」を検証しましょう。

(3)上司などからの調査報告に対する追及には、堂々と自信を持って「大丈夫です」と対応しましょう。

(4)上記(1)〜(3)の対応によって、文献調査のボリュームおよび時間を、劇的に削減することが可能となります。

 次回は、資料作成編に移ります。英語で資料を作る場合に、どのようにすれば英語の資料として完成しているかのように「見せるか」という部分に力点を置きます。加えて、実際の業務資料としても使えるようにするか、という方法についても解説します。では、またお会いしましょう。



本連載は、毎月1回公開予定です。アイティメディアIDの登録会員の皆さまは、下記のリンクから、公開時にメールでお知らせする「連載アラート」に登録できます。


Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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