プレゼンテーション資料はラブレターである:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(10)(2/5 ページ)
「プレゼンテーションとは求愛行動である。ゆえに、プレゼン資料とはラブレターである」――。これが、私がプレゼン資料についてたどり着いた結論です。ロンドンのオフィスで印刷トラブルに見舞われ、苦肉の策として作成した手書きのプレゼン資料は、予想に反して大好評でした。その勝因はどこにあったのか。今回は、実践編(資料作成)の前半です。“英語に愛されないエンジニア”のプレゼン資料のTo Be像についてお話します。
プレゼン資料とは、ラブレターである
まず、話の大前提として、プレゼンテーション資料について簡単に説明したいと思います。プレゼンテーション資料の作成方法などは、Amazonなどで検索すれば、関連する書籍や参考資料*1)が山ほど見つかりますので、本文では言及しません。
*1)例えば、「プレゼンがうまい人の「図解思考」の技術(永田豊志 著)」
ただ、英語のプレゼンテーション資料作成に関する、基本的な方針について、若干申し上げたいと思います。この連載名には「英語に愛されない」というフレーズが入っていますから、やっぱりそのコンセプトは「愛」で貫きたいと思います。
プレゼンテーションが、「ラブコール」であるなら、プレゼンテーション資料は、当然「ラブレター」となるはずだと私は考えました。そこで「ラブレターの書き方」について調査をしてみたのですが、けしからんことに、どの解説もラブレターの書き方の論理的な説明になっていない。
レトリックの説明はあるのですが、その客観的裏付けが欠けています。例えば、「です、ます調はダメ」などの言及があっても、その理由が説明されていません(ちなみに、私なら「タメ口」のラブレターを読んだら怒ります)。これでは、単なる個人の思い込みにすぎません。この程度の内容では、効果のあるラブレターの作成方法を説明しているとは言えません。
また、ラブレターを作成する「戦略的視点」、つまり「(ライバルを蹴落としてでも)自分が幸せになりたい」という明確なビジョンの記載もありません。
さらに、訴訟とは違い、ラブレターは、一度相手に渡してしまうと後で取り下げることができないものです。相手からラブレターの受け取りを拒否された場合などのダメージ(学生であれば卒業までの気まずさなど)は計り知れませんが、私が調べた限り、いわゆる「ラブレター・リスク」に言及している文献はありませんでした。
「ラブレターの書き方」に関する役に立つマニュアルや参考文献がないなら、「ラブレター本体」からそれを読み解くしかありません。そこで私は、ネット上で公開されているラブレターを片っ端から読みまくりました。
その結果、やはり優れたラブレターというのは、同時に優れたプレゼンテーション資料であるという確信を得ました。
上司の資料よりもラブレターを読め!
私が「うまいなあ」と思えるラブレターは、いずれも、(1)背景→(2)意思表示→(3)提案、が全て明確に記載されていて、さらに、全文で10行を超えない簡潔なものでした。
「素晴らしい。これは究極のテクニカルライティング(技術文章)である」と感嘆しました。新人や研修員の皆さんは、まず上司の資料を読む前に、ぜひ(自分宛か他人宛かはともかく)ラブレターを読み直してもらいたいと思います。
以下は、私が「うまい」と感じた1通のラブレターを要素分解してみたものです。
項目 | 内容 |
---|---|
(1)背景 | 「時々、オフィスでお友達と楽しげにお話されているあなたの表情を見ることができた日は、 とても幸せな気持ちになります」 |
(2)意思表示 | 「あなたが好きになりました」 |
(3)提案 | 「ゆっくりとお話したいです。一緒にご飯を食べに行きませんか」 |
その他 | 自筆で全文7行、薄めのクリーム色の封筒と便箋を使用 |
言いたいことの全てが、コンパクトにまとめられており、読み手が費やす時間は10秒以内で、100%理解可能。相手に「フラれた」場合のリスクに備えたイクスキューズ(言い訳)のフレーズもなく、正面突破の文面には凛(りん)とした誇りの高さまで感じられます。
プレゼンテーションの資料も、かくあるべきです。つまり、どのようなプレゼンテーションの資料であれ、その構成は、その想いを一点に集中した真摯(しんし)な「ラブレター」のごとくあるべきなのです。
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