市場のニーズを知れば、設計の意義が見えてくる:いまどきエンジニアの育て方(15)(1/2 ページ)
開発の後工程が製造ならば、前工程はマーケティングや企画に当たります。若手の育成というとどうしても技術に偏りがちですが、新人のころから市場や顧客を知る機会を与えるのはとても大切です。仕様書通りに設計するだけよりも、市場の動きや顧客のニーズを知った上で設計した方が、若手にとっても面白くやりがいのある仕事になるはずです。
初めて設計したCPUボードがうまく動作せずに悩んでいた佐々木さん。声をかけてくれた田中課長があっという間に動作不良の原因を突き止める姿を目の当たりにします。田中課長に「こうだろ?」と教わりながら、波形の変化を観測して原因を絞り込んでいくことも、佐々木さんにとっては初めての経験でした。また、この原因を絞り込む過程において、佐々木さんは、開発部門だけでは製品ができないこと、後工程である製造部をはじめ、部門間の連携が大事であることを学びます。
さりげなく気付かせる
これまで長谷川リーダーから満足にOJT(On the Job Training)を受けたことがなく、「設計し、図面を書くことが開発の仕事」だと思っていた佐々木さんです。田中課長の経験と勘を生かした問題解決のアプローチと、部門の連携が大事だということは、佐々木さんにとって、とても新鮮に映りました。
「入社して1年、誰も教えてくれなかったことを田中課長は自分に気付かせてくれた」――。この体験を通じて、佐々木さんの心の中に「課長のようなエンジニアになりたい」と、ぼんやりではあるものの“エンジニアの理想像”が見えてきたようです。
佐々木さんには視野の広いエンジニアになってほしいと願う田中課長ですが、佐々木さん自身の気持ちの変化には、ほとんど気づいていない様子です。技術のことを手取り足取り教えるよりも、実際の製品を教材にしながら、考える道筋や解決のロジック、開発部だけでは製品ができないことを示す――。田中課長は無意識のうちに行っていましたが、この“さり気なく気付かせること”が、本人(佐々木さん)にとっては最も効果的なのです。
マーケティング部門の製品コンセプト会議に若手を!
場面は変わり、田中課長はマーケティング部の松田課長と、この一件(田中課長自らが手を動かし、後工程の大切さを伝えたこと)について話をしています。
ほう、佐々木さんにそんなことがあったんですね!
つい、自分もあれこれ口を挟んでしまったよ。エンジニアのさがかなあ。
佐々木さんにとってはいい勉強になったのではないでしょうか?
だといいんだが……。1つ相談だけど、今度は前工程に関わる仕事を彼に伝えたいんだよ。
と言いますと?
「部門間の連携が大事だ」と佐々木さんが分かってくれたこともあるけど、設計のインプットが仕様書だけじゃつまらない。なぜ、こういう仕様書が出来上がったのか、世の中のニーズにもっと触れる、市場で何が起きているかを知ることで、設計そのものがもっと楽しくなるんじゃないかな。
「言われた通りに作りました」では面白味も少ないですしね……。
「製品構想」のプロセス(第12回 図2参照)で行われる製品コンセプト作りは、以前から松田課長のマーケティング部中心で行われてるだろう? その打ち合わせの場に、うちの佐々木さんを参加させたいんだ。
それはいいですね。若い時から技術とマーケティングの両方を身に付けておくことはいいかもしれません。僕自身、元々は技術者ですが今はマーケティングの必要性を痛感してますし……。マーケティング部内には開発未経験者もいるし、開発部の出身であっても開発経験が10年以上のメンバーばかりなので、若手がいることで活性化するかもしれませんね。
若手エンジニアの育成というと、どうしても技術偏重になっちゃうだろ。もっと顧客・市場・競合先について分かるエンジニアがいてもいいと思うんだ。
では、部長には僕から伝えておきますね。
ありがとう、助かるよ。それと、佐々木君の同期のハード開発2課の加藤君にも、課長経由で声を掛けておこうと思う。
若手がマーケティング部の製品コンセプト作りに参画する。これまで当社ではなかった取り組みで、わくわくしますね!
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