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「SiC」と「GaN」のデバイス開発競争の行方は?(地域編)知財で学ぶエレクトロニクス(3)(2/5 ページ)

次世代パワー半導体材料であるSiCとGaN。省エネルギーや小型化の切り札とされており、実用化に期待がかかる。現在、開発競争において、どの地域が進んでおり、どの企業に優位性があるのだろうか。それを解き明かすには特許の出願状況を確認、分析することが役立つ。

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なぜSiC、GaNなのか

 次世代パワー半導体に用いられるSiCやGaNにはそもそもどのようなメリットがあるのでしょうか。物性上、半導体のバンドギャップが大きいため、絶縁破壊電圧が高くなり、高電圧を扱うデバイスでの利用に向いています。高温においてもドーピング密度に比べて真性キャリア密度が十分に小さく、pn接合が問題なく動作します。つまり、高温動作を求める用途に適しており、パワー半導体としてとても魅力的な存在になります。

 既に、SiCやGaNでは、300〜500℃という高温での動作が確認されています。しかしながら、高温動作に向く半導体パッケージに関する技術的な蓄積が遅れています。Siパワーデバイスでは、200℃を超える温度での動作を想定していないからです。このため、SiCやGaNといえども、当面は200〜250℃程度の接合温度で利用することになります。

 それではSiCやGaNがあまり役に立たないかといえば、そうではありません。例えば、現在のハイブリッド車(HV)には、Si IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を冷却するための専用冷却水系(60℃)がありますが、SiCパワー半導体で200℃の接合温度が達成されれば、エンジン用冷却水系(120℃)と共用できるので、冷却装置1系統分(ポンプやラジエータなど)が不要となります。これにより、HVのコスト削減と車体軽量化が同時に実現できることになります。ですから、車両の軽量化に取り組む自動車メーカーにとって、次世代パワー半導体デバイスはとても魅力的なのです。

ゆっくりとした開発の歴史

 高電圧や高温に強いというSiC、GaNのメリットは1950年代から理解されていましたが、良質なウエハーを作ることがSiと比較して難しかったため、実際にデバイスの開発が進み始めたのは1980年代以降のことでした。

 1995年には、Siユニポーラ素子の限界を超える耐圧1750VのSiC SBD(Shottky Barrier Diode)が試作されています*1)。これ以降、SiCが注目を集め、2000年以降の社会的な省エネルギー要請と相まってSiCパワー半導体の研究が促されました。

 2001年には、Siemensから分離独立(1999年)したInfineon Technologiesが早くもSiC SBDを発売し、このとき実用化段階に入ったといえます*2)。SiC SBDはSi PINダイオードの上位互換品であり、Si半導体での回路設計技術をほぼ継承できることが特徴であり、パワー半導体のスムーズな世代交代につながると考えられました。

*1) 武田計測先端知財団による松波弘之氏の業績紹介

*2) インフィニオン日本法人の発表資料

次世代パワー半導体専業企業の買収合戦

 同業界では、2010年ごろから企業買収が活発化しています。2009年10月にロームは、ドイツSiemens(シーメンス)の子会社であったドイツのSiCウエハー製造企業SiCrystalを買収したことを公表*3)。2010年10月には、米Power IntegrationsがSiCパワー半導体を手掛けるSemiSouth Laboratoriesに大型投資を行っています*4)。そして、同年に、三菱電機がパワー半導体の後工程を手掛けるドイツの半導体メーカーVincotech Holdingsの全株式を米投資会社から取得する契約を締結したと発表しました*5)

 翌2011年4月には、Fairchild SemiconductorがスウェーデンのSiCパワートランジスタ企業TranSiCを買収し、SiCパワー半導体事業に参入しました*6)。同じく、2011年には、韓国の素材メーカーSKCが、韓国Crysbandを買収した他、Infineon TechnologiesがドイツSiCED Electronics Developmentを100%子会社化しています。

*3) 2010年2月9日に公開された、ロームの平成22年3月期 第3四半期決算短信

*4) 2010年10月22日に公開されたPower Integrationsのニュースリリース

*5) 2010年11月30日に三菱電機が公開したニュースリリース。Vincotech Holdingsは、一般産業機器用のインバーターや太陽光発電システムのパワーコンディショナーなどに搭載されるパワー半導体の開発や、組み立て・検査工程、販売を欧州中心に展開しており、生産拠点はハンガリーにある。

*6) 2011年4月14日にFairchild Semiconductorが公開したニュースリリース

 ポストSiパワー半導体として期待がかかる次世代パワー半導体。ここではSi半導体と同じような企業変遷の歴史が繰り返されているように見えます。これら一連の動きの背景には、高品質化と大口径化を兼ね備えたSiCウエハーの確保の他、より優れた歩留まり(良品率)の得られるデバイスの製造と、組み立て技術の囲い込みがあります。

 SiCパワー半導体はSiパワー半導体と比較して、バンドギャップが大きいために半導体層の薄膜化が実現できます。しかし、Siの酸化膜(SiO2)に匹敵する良質な絶縁膜の製造は困難という事実があります(関連記事)。企業変遷の動きが起こる背景の1つがこのような課題の克服にあります。

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