激動の1年だったルネサスの2012年、2013年は3社のSoC事業統合が再燃か:ビジネスニュース
2012年、日本の半導体業界の話題を独占していたルネサス エレクトロニクスの業績不振と、状況打開のための経営再建策。結局、官民ファンドの産業革新機構と顧客企業8社から総額1500億円の出資を受けることで決着した。2013年は、富士通セミコンダクター、パナソニックとのSoC事業統合に向けた動きが再び活発化しそうだ。
2012年、日本の半導体業界では、ルネサス エレクトロニクスの業績不振と、状況打開のための経営再建策が常に話題になっていた。
ルネサスは、2012年1月末の2011年度(2012年3月期)第3四半期決算発表で、2011年度の通期業績予想を下方修正するとともに、2011年度の下期業績の営業黒字化が困難になったことを明らかにした。東日本大震災の影響が直撃した2011年度上期の半導体売上高が4022億円だったのに対して、2011年度下期はそれを下回る3858億円に落ち込んだのだ。
2011年10月末には、「2011年度の第2四半期以降、業績は回復傾向にあり、下期は確実に黒字化を達成したい」(ルネサス社長の赤尾泰氏)と意気込んでいたにもかかわらず、2011年夏に発生したタイ洪水の影響や、欧州の不況、中国経済の減速などを見通せていなかったのが大きな原因だった。ここから、同社の混迷の1年が始まったと言っていい。
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2012年5月の2011年度決算発表では、半導体売上高が前年度比23%減の7860億円、営業損益が同713億円悪化して568億円の損失となったことを報告。さらに、「景気に左右されない製品群を中核とする事業計画を策定中」として、2012年度の業績見通しの開示を見送った。
この時点で、既に経営資金が不足する可能性を指摘されていたが、決算発表では「運転資金は十分にある」(同社)とかわしていた。実際にはこの時期に、出資を受けることとなった産業革新機構をはじめ、「国内外の複数の投資家を割当候補先として検討を進め、いくつかの割当候補先から具体的な出資提案を受けていた」(赤尾氏)というのが実態ではあったのだが。
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そして2012年7月、前工程9拠点15ライン、後工程9拠点を対象とした国内生産拠点の再編と、5千数百人規模の早期退職募集を中核とする事業再建計画を発表した。赤尾氏は、「譲渡もしくは閉鎖する工場がある地域に大きな影響があることは分かっている。しかし、ルネサスがなくなるか、痛みや犠牲があっても残すか、どちらを選ぶか問われれば、間違いなく残す方を選ぶ。今回の再建計画はそのためのものだ」と説明。厳しい判断を迫られたことをうかがわせた。
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2010年9月末〜10月には、事業再建計画に関連する発表が続いた。まず9月28日には、大株主3社と主力取引銀行4行から、事業再建計画に必要な970億円を調達したことを発表した。次に、10月3日には、9月26日に締め切った早期退職募集の結果を公表。早期退職を申し込んだ人数は、当初見込みの5千数百人規模から約7500人にまで膨れ上がった。これによって、人件費の削減効果が年間で約540億円得られるという。同月12日には、再編対象となっていた後工程工場のルネサスハイコンポーネンツ(青森県鶴田町)を、香川県高松市に拠点を置くアオイ電子に売却することを決めた。
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2012年10月末の2012年度中間決算発表では、決算内容と事業再建計画の実施状況のみを説明。以前から報道されていた、官民ファンドの産業革新機構や米国の投資ファンドKKR(Kohlberg Kravis Roberts)による増資に関する報道への質問については、「当社から発表したものではないので回答できない」(ルネサス執行役員の佐川雅彦氏)とノーコメントを貫いた。
なお、ルネサスのグローバルの従業員数が、2012年9月末の約4万1900人から約3万4450人まで減少したことも明らかになった。さらに今後は、工場の譲渡や閉鎖によって4千数百人削減され2014年度末にはグローバルの従業員数は約3万人まで絞り込まれることも分かった。
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また、2012年7月の発表で言及されていた「アミューズメント向けSoC(System on Chip)」の出荷が始まり、売上高に反映されるようになった。このアミューズメント向けSoCとは、任天堂の次世代据え置き型ゲーム機「Wii U」向けの製品である。
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そして、2012年12月10日には、官民ファンドの産業革新機構を中核に、トヨタ自動車、日産自動車、ケーヒン、デンソー、キヤノン、ニコン、パナソニック、安川電機の顧客企業8社から総額1500億円の出資を受けることを発表した。この他、「M&Aなどの大規模投資案件に対応するため」(産業革新機構社長の能見公一氏)、500億円を追加出資することも検討している。
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なお、同日発表した2012年度の通期決算予想では、半導体売上高が前回予想(2012年8月発表)比510億円減の7600億円に落ち込むにもかかわらず、営業損益が210億円の黒字になるという予想は据え置いた。500億円もの売上高減少にもかかわらず、営業利益予想を据え置けるという事実は、先述した7500人の人員削減効果の大きさを物語っている。
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業績不振と経営再建に振り回されたルネサスの2012年も間もなく終わろうとしている。しかし、2013年以降は平穏無事に事業を進められるという保証は一切ない。
特に、一旦沈静化していた、富士通セミコンダクター、パナソニックとのSoC事業統合の話題が再燃することは確実だろう。既に一部報道によれば、富士通は2013年3月末までの決着に向けて交渉を進める方針だという。
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