「失敗が約束された地」への希望なき出発……海外出張は攻撃的に準備する:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(12)(2/5 ページ)
海外出張とは、「魅惑の世界」への出発ではありません。「失敗が約束された地」への希望なき出発です。それゆえ、およそ考え得るあらゆるトラブルパターンを想定し、入念な準備をしておくことが、われわれ英語に愛されないエンジニアが無事に帰還するための唯一無二の方法なのです。今回は、実践編(海外出張準備)の前編として、江端流の攻撃的かつ戦略的な出張準備を紹介します。
海外出張における3つの信念
こんにちは。江端智一です。
今回は、海外出張の準備についてお話したいと思います。
私は「海外出張の準備=トラブル回避の実行手段」と位置付けます。すなわち、周到な準備こそが、海外出張におけるトラブルを回避する、というわけです。
さて、海外出張における私の信念(信仰といってもいいかも)は、次の3つです。
(1)誰も信じてはならず、何も信じてはならない
(2)どこにいようと、何をしてようと、必ずトラブルに遭遇する
(3)遭遇したトラブルを完璧にリカバー(回復)する手段はない
この信念から導かれる、海外出張準備のポリシーは以下の通りです。
■トラブルによる被害を最小限にとどめるため、考え得る最大限の準備をしておく
■それでもなお、完璧なトラブル回避は不可能である
■トラブルに遭った場合の初動方針は、「逃げて、逃げて、逃げまくる」である
■トラブルシューティングは、自分の身柄の安全を確保してから開始する
今回、私が申し上げる「準備」とは、いわゆる「海外旅行前チェックリスト」などという甘っちょろいものではありません。
言うなれば、「英語に愛されないエンジニア」に特化した、「攻撃的かつ戦略的な海外出張準備」の提案です。
海外出張のトラブル、あるある大事典
では、以下、海外出張におけるトラブルを、私が体験した具体的な事例で説明します。
資料は先方に届きません
<トラブル事例>
資料作成方法については、連載を2回分も使って説明しましたので、ここでは繰り返しません。海外出張に先立って、電子メールで先方に資料を送付する場合が多いと思います。しかし、意外に知られていませんが、電子メールプロトコル(SMTP)は、電子メールの到達を「保証していません」(RFC5321)し、途中で電子メールがロストしても、それを知らせる手段も規定されていません。
<準備しておくこと>
海外の相手先とそれ以外の関係者にも、資料を確実に転送しておくことです。海外の取引会社に資料をメールで送付する場合、暗号化して送付するのはもちろんですが、相手先から「受領した」と記載されたメールを送り返してもらうことが肝要です。「受け取っていない」と言わせないために、その返信メールを印刷したものを持っていくことも忘れないでください。
必ず忘れ物をします
<トラブル事例>
フライト前日のパッキングは、トラブルを発生させるだけの行為です。準備する資料、持っていく物品が、1つも忘れることなくフライト数時間前に準備できたとしたら、それは「奇跡」です。前々日であれば、足りない荷物、見落としていた手続き、準備していなかった書類などを準備することがでますが、前日では、もう対応しようがありません。
そして、海外においては、その「たった1つの忘れもの」が致命的なトラブルになります。
<準備しておくこと>
持ち物リストを作成して、とにかく前々日までに、荷物をキャリーバックなどに突っ込んでおくことが必要です。携帯電話やPCも、コンセントから引き抜いた電源ケーブルごとキャリーバックの中にたたき込み、必ず前々日には、そのキャリーバッグを手荷物の中に突っ込んでおいてください。一度パッキングを始めれば、忘れ物に気がつくことは結構多いものです。
そして、言うまでもなく、荷物の量は最小限にすることです。機内持ち込みだけにできれば言うことなしです。下着、靴下、ワイシャツなどは、2日分あれば十分です。そんなものは、バスタブに突っ込んで、せっけんで洗って干しておけばよいのです。
2日あれば、ホテルの中でも乾きます。プライベート用の服を持っていく必要はありません。私は、スーツで歓楽街を歩いていて、叱られたことは一度もありません(目立ちますが)。
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