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「失敗が約束された地」への希望なき出発……海外出張は攻撃的に準備する「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(12)(4/5 ページ)

海外出張とは、「魅惑の世界」への出発ではありません。「失敗が約束された地」への希望なき出発です。それゆえ、およそ考え得るあらゆるトラブルパターンを想定し、入念な準備をしておくことが、われわれ英語に愛されないエンジニアが無事に帰還するための唯一無二の方法なのです。今回は、実践編(海外出張準備)の前編として、江端流の攻撃的かつ戦略的な出張準備を紹介します。

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荷物はターンテーブルから出てきません

<トラブル事例>

 幸いなことに私は経験がないのですが、私の友人には、背広を入れたスーツケースをロストバッゲージ(紛失)して、Tシャツとジーンズで海外の会社の社長に面会するという事態になった者がいます。

 また、翌日使う打ち合わせ資料やプレゼンテーション用のPCが、ロストしたスーツケースに入っていたとしたら、もはや出張自体が完全に失敗です。そのようなことを報告して「そうか、仕方ないな」といってくれる会社は、私が知る限りありません。あなたは、次の人事異動が発表されるまで、ずいぶん不安な日々を過ごすことになるでしょう。


写真はイメージです

<準備しておくこと>

 「飛行機に預けた荷物は、到着先の空港のターンテーブルから出てこない」を原則としてください。それでも預けなければならないのであれば、必ず重要度の低い物を入れてください。基本的には業務に影響のない、カジュアルな服、下着、水着、化粧品、シャンプー、リンス、せっけん、パジャマなどでしょうか。私はホテルの備品で間に合わせるので、持っていきませんけど。間違っても、仕事で使うPCやプレゼンテーション資料、出張先で訪ねる予定の相手先の住所を記載したメモなどを入れてはなりません。

トランジット(乗り換え)に失敗します


写真はイメージです

<トラブル事例>

 搭乗していない乗客やトランジットの乗客のために、空港会社の社員が声を出して探し回り、到着ゲートまで迎えに来てくれるというサービスを実施しているのは、私が知る限り日本だけです。あれは「世界の奇跡」というべきサービスです。普通の航空会社は、トランジットの客がどうなろうと知ったことではありません。出発してしまった後の、誰もいない出発ゲートでぼうぜんとし、泣き出したところで誰も助けてくれません。

そうなった場合、ここからあなたは、自分の力だけで、

  • 英語で事情を説明し、
  • 英語で今後の対応の説明を受け、
  • 英語で代替便を探し、
  • 英語で電話のかけ方の説明書を読み、
  • 英語で顧客とホテルに連絡をし、
  • 英語で損金の交渉をし、
  • 英語で再発券手続きを行う

ことになりますが、本当にできますか、そんなこと

<準備しておくこと>

 あなたの取るべき戦略は1つです。トランジットが必要な航空便を使わないことです。現地直行の便を(どんなに値が張ろうとも)確保すべきなのです。会社の経理部門がゴネたら、あなたもゴネましょう。「私が、トランジットに失敗した時、経理部が私のサポートを責任を持ってやってくれるのですね」と言えば、まず勝てます。ここは闘う場面です。負けてはなりません。そうでないと、私のように、ドイツのフランクフルト空港で、人生で経験したことがないような長距離の全力疾走(スーツケース他、4つの荷物つき)をするハメになります。

タクシーの運転手は、自信たっぷりに、あなたをデタラメなホテルに連れていきます

<トラブル事例>

 ……思い出したら、ふつふつと怒りが湧いてきました。米国のサンノゼ空港から、私を50kmも離れたデタラメなホテルに連れていった、あのタクシードライバーのアホ野郎。こっちは地図まで見せたのに、「OK、この街のことなら任せとけ」と適当に走らせやがって……。

 当然値引き交渉はしましたけどね。しかし、ヤツはこっちがネイティブでないことをいいことに、なんやかんや言い訳して、引き下がりませんでした。「文句があるなら、ここから歩くか?」という態度に、カチンときました。

 まあ、ここでトラブル起こされるよりは、100米ドル程度の損金で済ませてもらう方が私の会社の管理部門はありがたいはずだ、と考えて、適当な金額で折り合いをつけました。

<準備しておくこと>

 もう、こうなると「運」ですね。アホなドライバーに当たらないことを祈るか、あるいは、公共交通機関(電車やバス)を使うことになります。

電車や地下鉄で、乗り換えに失敗します


写真はイメージです

<トラブル事例>

 このサンノゼ事件以後、私はタクシーを利用せず、電車やバスを利用するようになったのですが、これもまたリスクが高いのです。

 ――乗り換えにミスったら、もう、どこにも行けなくなるかもしれない。

 まず、駅の表記の意味が分かりません。“ENTRANCE”は入口で、“EXIT”は出口です。では、“Sortie”、“Eingang”が何だか分かりますか? 駅の中で、表記の意味が分からない恐怖はハンパではないですよ。どこに向かって歩き出せばよいのか全く分からなくて、プラットフォームでぼうぜんと立ちすくまなければなりません(われわれも、日本を訪れる旅行者の恐怖に思いをはせましょう)。

 急行電車の中から、通過駅の駅名を読み取る(ドカベン山田クラスの)「動態視力」までも要求されます(本当)。一度、「なんかガラの悪いあんちゃんが、たくさん乗り込んでいるなぁ」、という電車に乗って現地に向かったことがあるのですが、後でガイドブックを調べたら、「絶対に使うな」と言われている路線だったりして、青ざめてしまいました。

<準備しておくこと>

 もし、鉄道/地下鉄を使うなら、そして乗り換えが必要な場合には、相当周到な「乗り換えイメージトレーニング」をしておく必要があります。私の場合、フライトの後半は、ほとんどその訓練だけで明け暮れています。飛行機の中で映画鑑賞などをしている時間は1秒もありません。

現地の人間は、善意でデタラメを教えます

<トラブル事例>

 財布を紛失して運転免許証も失ったとき、米国ロサンゼルスにあるディズニーランドのセキュリティのおっさんの、「大丈夫、国内線なら身分証明書なしでも飛行機に乗れるよ」という言葉を信じて、ひどい目に遭いました。

 航空会社のカウンターで、「搭乗できません」と言われて真っ青になった後、私は職場の同僚に助けを求めました。その時は、パスポートの写しを手に入れるため、米国に赴任していた私の日本人の同僚にオフィスの机の中をひっくり返してもらい、さらには、私のアパートにまで踏み込んでもらって、ファックスでコピーを送ってもらったのです。航空会社のスタッフは、ひどく同情してくれましたが、結局その日のフライトには間に合わず、翌日のフライトとなってしまいました。

<準備しておくこと>

 権限のない人間の適当な言葉を信じてはなりません。最悪の状況を自分で想定して動くことです(この場合は、警察に行って盗難証明書と身分証明書の代わりとなる書類を発行してもらうことが正解でした)。

 特に、米国人は人を喜ばせるのが大好きなので、このようなリップサービスをしますが、絶対に信じてはなりません。彼らにとって、私たち外国人は「喜んで楽しんでもらうだけの対象」にすぎないのです。

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