トラブル遭遇時の初動方針は、「とにかく逃げる!」:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(13)(3/4 ページ)
どれだけ周到に準備をしたとしても完全には回避できない――。悲しいかな、トラブルとはそういうものです。悪天候でフライトがキャンセルされたり、怖い兄ちゃんが地下鉄に乗り込んできたり、“昼の”歓楽街でネーチャンにまとわりつかれたり……こういうものは、はっきり言って不可抗力です。実践編(海外出張準備編)の後編となる今回は、万が一トラブルに遭遇した場合の初動方針についてお話します。
身の安全を確保→日本語ができる人を探す
それでは、次に「トラブルシューティングは、自分の身柄の安全を確保してから開始する」についてお話します。
基本的にトラブルが発生した場合、心理的に相当動揺している状態にあります。この状態のままでトラブルシューティングを開始すると、たいていの場合、さらにひどい目に遭います。
そのトラブルが発生している場所は、日本ではないのです。言葉は全く通じませんし、相手の言っていることも全く理解できません。そんな状況下でトラブルに遭遇し、落ち着いて対処できるヤツがいたら、そいつは人間ではありません。
そのとき、あなたの頭脳のパフォーマンスは100%近くになっており、他の機能が著しく低下しています。それは、あたかもWindowsのタスクマネージャーのパフォーマンスタグのCPU使用率が100%からピクリとも動かず、他のアプリケーションをたたいても、全くアクティブにならない状態と同じです。
具体的な事例を1つ。
インドでタクシーの運転手と言い合いになったことがあります。そのとき、タクシーの運転手が「もう、この時間(深夜だった)にバスはない」と言うので、「本当か」と現地の人間に尋ねたところ、タクシーの運転手がうそをついていることが判明しました。「ふん! ザマーミロ!!」と吐き捨てるよう言って意気揚々とバスに乗った後、次に行くホテルを記載した書類をバス停に置き忘れたことに気がつきました。
この程度の軽いトラブルであっても、簡単に別のトラブルを引き起こしてしまうものなのです。
そこで、私からのアドバイスです。
まずトラブルに遭ったら、荷物は全てバックやリュックに入れて、両手をフリーにできる状態にします。手に握っているモノは、必ず紛失すると思いましょう。もし両手をフリーにできない荷物があるなら、手首と荷物をひもで結ぶなどして対処してください(本当)。
私の場合、フックを付けたストラップを財布と携帯電話に付けて、常にベルト通しのところに引っかけています。ただし、携帯電話を入れるベルトホルダーごと引っかけていると、警察官が携行している小型拳銃のようにも見えますので、注意が必要です。先日、予想通り、中国のセキュリティチェックでつかまりました。こんなことで射殺されたら、世界中の笑い者です。
まあ、それはさておき、「トラブルに遭ったら、落ち着け」とはよく言われますが、「落ち着けるようなトラブル」なら、それはトラブルではありません。
二次的トラブルを回避するためには、まず、両手がフリーになった状態を確保してください(先ほど言ったように、手荷物を飛散しないように体の周りに集めるなど)。そして、その場に立ち止まって、3ステップ程度先までトラブル対応手段を考えます(全ステップを考える必要はありません)。
そして、次に大切なのは、日本語で対応してくれる人を見つけ出すことです。例えば、日本に連絡する、JALかANAのカウンターに行く、保険会社に電話する、大使館に連絡するなどです。ここで重要なのは、日本語で相談できる相手を複数以上書いたメモを、全部の手荷物の奥に突っ込んでおき、さらに自分のポケットにも1枚突っ込んでおくことです。
まず日本語で誰かとしゃべりましょう。
対応すべきことが自分で整理できますし、うまくいけば、よいアドバイスをもらえることもあります。直接、解決に乗り出してくれる人もいるかもしれません(でも、いないと思っておいた方がいいです)。
「トラブル対応能力を上げたい」なんて一言も言ってない!
さて、最後になりますが、「トラブルに遭ったって、なんとかなるさ」と言い放つ人が、日本人の中にも結構な数います。特に海外出張を繰り返しているベテランや、海外赴任経験者によくみられます。はっきりと申し上げたいと思いますが、不本意な海外出張をしなければならない私たちに、あなたたちのくだらない「経験主義」を押し付けるのをやめてほしいのです。
そりゃ、どんなトラブルであれ、なんとかなるでしょう(最悪でも命を失うだけで、戦争に発展することなどはないでしょう)。
問題は「なんとかなる」ではなく、トラブルに遭うこと自体が、大変な「苦痛」であるという事実なのです。できれば、苦痛なく海外出張を終えたいと思うのは当然です。トラブルを重ねることでトラブル対応能力が上がるのは事実でしょう。しかし、われわれは、そんなトラブル対応能力を上げることを目的として海外に出張するわけではないのです。
「『海外で仕事をしたい』なんて一言も言っていない!」私たちは、「『トラブル対応能力を上げたい』なんて一言も言っていない!」のです。
私たちは「海外出張で、トラブルに遭いたくない」。
それだけなのです。
では、次回からは、本編の続き、出国・入国、ホテルチェックイン編に入ります。皆さん、ごきげんよう。
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