「キャリアは自分で切り開く」に踊らされない:いまどきエンジニアの育て方(19)(2/2 ページ)
長く仕事をする上で、キャリアデザインというのはとても重要です。キャリアデザインには、社内異動の他、より高みを目指すための、あるいはキャリアチェンジのための転職も含まれるでしょう。しかし、転職雑誌やサイトで目立つ「キャリアは自分で切り開け!」という言葉に踊らされてはいけません。そもそもキャリアデザインというのは、それほど簡単なものではないからです。まずは、筆者が提示する「3つの質問」について答えを考えてみてください。
部下がキャリアで悩んだら……
さて、部下が自分のキャリアに悩んだら、どうしたらよいでしょうか? キャリアには、社内における人事異動、社外への転職も含まれます。
人事異動の場合、社内公募などの制度がない限り、通常は上司や人事部門から辞令が落ちてくるケースがほとんどです。そうは言っても、今の仕事が合わない、他の仕事がしたいという場合もあって当然ですから、人事考課の時期などに「自己申告」をする人もいるでしょう。いずれにしても、社内での人事異動については、上司として部下の動きをつかむことは比較的容易です。部下が上司を慕っていれば、上司にも相談をすることでしょう。
一方で、転職を考えている部下の場合は、普通は転職が決まってから上司に話すことが多いので、相談が来た時点で「〇月△日付で辞めます」という話になります。上司からすれば寂しいものですが、「なんでもっと早く言ってくれないんだ?」「社内で配置転換も検討できたのに」と悔やんでも後の祭りです。残念ながら、上司と部下の間に溝があった場合もあるかもしれません。
キャリアデザインの動機とは?
今さらですが、モチベーションについて考えてみましょう。モチベーションというのは、転職にとどまらず、キャリアデザインの動機となり得るからです。
図1をご覧ください。左側は有名な「マズローの欲求五段階説」です。一度はご覧になった人もいるでしょう。右側は「ハーズバーグの衛生理論」です。それぞれについて、ここでは特に詳しい説明は行いません。
一般には、この2つの有名な理論はバラバラに書かれていることが多いのですが、真ん中に【組織が与えるインセンティブ】(図中 参考文献参照)の5つを加えることで、マズローとハーズバーグは1つに結ばれることが分かります。ちなみに、この1枚のチャートは当社(株式会社カレンコンサルティング)が作成したもので、それぞれの関係性が分かりやすいかと思います。
キャリアデザインにおいて、“自己実現”という言葉は、欲求五段階説では最高次に位置します。「内的に満たされたい」という高次の欲求で、この欲求を満たすことはもちろん、こうした欲求にたどり着くことも、そう簡単ではありません。
読者の皆さんが上司、管理職であるならば、「マズローの“高次の欲求”」と、「ハーズバーグの“動機づけ要因”」に着目してください。
この領域が「頑張れる理由」であり、第6回でお話しした「内発的モチベーション」です。新約聖書「マタイ伝」第4章の有名な言葉、「人はパンのみに生きるにあらず(Man shall not live by bread alone.)」に近いものがあります。
給与、社会的地位、役職などの「物質的満足」ではない満足は何かと考えると、「達成感」や「人に認められること」、そして「自己実現」などが挙げられます。
キャリアデザインを考える時に、モチベーションや動機付けについて、上司の皆さんもいま一度、頭に入れておくとよいでしょう。
辞める辞めないは上司と仲間次第?
転職をする理由として、自分自身のキャリアアップのためだけでなく、「休みが少ない」「給与が低い」など、マズローで示すところの「低次の欲求」が挙がることは珍しいことではありません。
しかし、最も多い理由は、「職場が面白くない」「上司と合わない」など、職場環境や人間関係に関するもののようです。開発の現場においては、「仕事がつまらないから辞める」という理由は、他の職種に比べて少ないのです。
「キャリアは自分で切り開くものだ!」と豪語していたWeb系エンジニアやアプリの開発エンジニアが、ブログに「結局、辞める辞めないは上司と仲間次第だ」と書いていたことがあります。「会社を辞めること」に限って言えば、エンジニアであろうがなかろうが、職種問わず、当てはまることなのかもしれません。
Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。
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