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海外出張に行くあなたは、「たった一人の軍隊」である「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(14)(5/6 ページ)

われわれ英語に愛されないエンジニアが海外に出張する上で、「最大の難所」とも言える場所――。それが入国審査です。今回の実践編(入国・出国)では、海外出張に行くあなたを「たった一人の軍隊」とみなし、敵国(=出張先)に首尾よく潜入(=入国)する方法についてお話しましょう。入国審査で使える“レジュメ”も紹介します。

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税関で使える「水戸黄門の印籠」がある!

 さて、「これは何だ」という質問に対しては、入国審査と同様に、説明書を準備しておいて「これを読め」と対応するのが正解ですが、もう1つ、制度面からお勧めできるアプローチがあります。

 「ATAカルネ」の利用です。

 一般的な通関手続きを、もう一度おさらいします。

 輸入においては、

(Step.1)申告書その他の通関書類を提出するとともに、輸入しようとする物品を見せてチェックを受ける。

(Step.2)輸入税(関税、物品税など)を支払い、輸入の許可をもらう。

となり、輸出においても、Step.1と同じような手続が必要となり、往復で合計4回必要であるお話はしました。仮にあなたが、複数の国を回る場合を想定して下さい。この手続きの回数を考えるだけでもゾッとします。

 「ATAカルネ」は、これらの輸出、輸入、再輸出、再輸入の通関手続き全てで使うことのできる、「水戸黄門の印籠」のような効力を発揮する書類です。正式名称は「物品の一時輸入のための通関手帳」といい、「ATA条約」という多国間の国際条約に基づいて、締約国税関において正式な通関用書類として認められているものです。

 「ATAカルネ」は2つの働きをします。

 第一に、輸出入の申告に当たって税関に提出する書類としての役目です。通関手続きにおいて税関に提出する特別の用紙がパックされており、必要な事項を記載して、税関に提出すると、税関が記載事項と物品の内容をチェックするだけで手続きが完了します。

 第二に、ATAカルネは、外国への輸入通関手続きの際に、輸入税の担保書類になります。万が一にもないと思いますが、顧客が「そのプロトタイプ、研究目的で持っていたいので、それをここに置いていけ」などとむちゃを言い出した場合に、輸入税を支払う旨の誓約書の役割を持っています。

 面倒を省いて乱暴に説明すると、ATAカルネとは、

 「オメーらが気にしている面倒ごとは、全部日本国内で白黒ハッキリさせてきているからよー、とっとと、そこを退きやがれ」

を実現する書類、と思っていただければ結構です。

 ただし、ATAカルネといえども、各税関でのフリーパスを保証する万能の書類ではありません。テレビドラマ「水戸黄門」を見たことがない若者に印籠を見せても無意味なように、ATAカルネを理解していない役人には、別段何の効力も発揮しないのです。「面倒に巻き込まれる時は、何をしても巻き込まれる」と思っておいて下さい。

 入国で重要なことは、どんな手段を用いようとも入国を果たすことです。どのような不愉快なことがあろうとも、あなたは、自分の会社の利益のために派兵された「たった一人の軍隊」なのですから。

 まあ、ともあれ、入国審査を通過し、製品のプロトタイプを入れたスーツケースがバゲッジクレームから出てきて、荷物を確保できれば、「戦略物資とともに、敵国への上陸に成功した」ことになります。


 では、今回の内容をまとめます。

 海外出張での打ち合わせを、「たった一人の軍隊」による「たった一人の戦争」と位置付け、「入国」を、敵の所在する国への潜入とみなせば、その目的は

  1. 兵士(あなた)の戦場への輸送(敵拠点への潜入)
  2. 戦略物資(プレゼンテーション資料、設計資料、サンプルプロトタイプ)の運搬

を、トラブルなく実施することです。

 その手段としては、事前に

  • 説明用の資料(レジュメ)
  • ATAカルネ

を作成して、潜入時の入国審査官と税関職員の迎撃に備える、ということになります。


 次回は、「ホテル編」に入ります。「ホテル編」では、ホテルを、戦闘の準備と支援を行う兵站拠点とみなして、「戦闘」そのものではなく、「戦闘準備」にリソースの9割を投入する「兵站主導型」の闘い方について説明します。

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