「インフォーマルな場」を仕掛けて、職場に変化と成長をもたらす:いまどきエンジニアの育て方(21)(2/2 ページ)
ITの普及によって、“コミュニケーションレス”になりがちな職場。これでは、若手エンジニアが上司や先輩に何かを相談したくても、しにくい状況になってしまいます。若手とベテランが、互いにあまり気負わずに話ができるような「インフォーマルな場」は、上司である皆さんが設ける必要があります。
コミュニケーションの質は「インフォーマルな場」で高まる
さて、ここまでの話をいったん整理しましょう。図3をご覧ください。
ピラミッドの縦方向はコミュニケーションの質的変化を表し、上に行けば行くほどコミュニケーションの質は高くなります。分かりやすい例でお話しすると、よく、新入社員は「報連相(報告・連絡・相談)が大事」と言われますが、「報告」と「連絡」よりも「相談」の方が、ステージは高くなります。
このピラミッドに前回の「フォーマルな場」と「インフォーマルな場」を追加し、さらにコミュニケーションの方向性を加えると、より分かりやすくなったかと思います。
質の高いコミュニケーションは「インフォーマルな場」を通じてもたらされ、そこでのコミュニケーションの方向は、双方向になります。先ほどお話した「対話」も、「インフォーマルな場」で生まれやすいものです。“相談”を通じて思いや信頼感を共有し、“協働”を通じて志や前向きなエネルギーを得て、最終的に“創知”の段階では知恵が生まれるというプロセスになります。
かつては、上司と部下が日々の時間を共有しながら対話を行える環境が、職場の中で育まれてきました。それが自然とOJT代わりになっていたのです。しかし今では、ITの普及やゆとり教育に加えて、企業を取り巻く環境が激変し、誰もが余裕がなくなってしまったこともあり、社内から「インフォーマルな場」がどんどんなくなってきています。
社内にオープンカフェやコミュニティスペースを設けるなど、「インフォーマルな場」作りに、積極的に取り組んでいる会社も増えています。このようなスペースがあると、部署や役職を超えた人たちが集まり、コミュニケーションを交わすことで新たな知恵を生む「創発的な活動」を促進します。
取り組みとしては、話題性もあるしよいことですが、日本企業の場合はもっと日本的なやり方もあるだろうと筆者は考えます。会社がわざわざこのようなカフェやスペースを用意しないとコミュニケーションそのものが機能しないのは、組織的におかしいということです。専用のスペースなど用意しなくても、コミュニケーションが成り立つ場を職場の中で実現できれば、言うことはありません。上司である皆さんにはぜひ、実現に向けてトライしてもらいたいと思っています。
「インフォーマルな場」は、組織内に伝搬する
職場の中に「インフォーマルな場」を設けて、上司やベテランと若手が“対話”をする。
いったい何を話したらよいのか悩む方もいるかもしれませんが、大上段に構える必要はありません。テーマは何でもよいのです。自社の特性にマッチした若手の育成のやり方を、上司だけで考えるのではなく、若手を入れて一緒に考えることもありでしょう。技術的なことをテーマとして、「安全設計のあり方」「分かりやすい仕様書の作り方」などの勉強会を開くのも一案です。
「インフォーマルな場」は、組織内に伝搬されやすい特性を持ちます(図4)。フォーマルな会議と異なり、小さな勉強会のような場が組織内にいくつ生まれてもよいのです。
この「インフォーマルな場」を上司が仕掛けるとともに、会社としてもこのような場を支援する仕組みができれば、より望ましいでしょう。社内のあちこちで自発的な勉強会が開かれ、改善の検討が行われ、そこではベテランから若手まで、部署、役職、年齢、性別の枠を超えて話をしている。そのうち、それが創発的な活動となり、知恵も出てくることで、問題解決や意思決定も迅速になっていく――。これを繰り返して、組織も人も成長するのです。
まずは自分の部署にそうした「場」を設けることからスタートしてはどうでしょう。そして、この「場」の中に、積極的に若手を入れるのです。このような取り組みを始めることで、希薄化したコミュニケーションはより密になります。人間関係・信頼関係が出来上がったら、組織的に若手を育てたり、上司やベテランエンジニアのノウハウを伝承したりすればいいのです。
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詳細は、こちらをご覧ください。
Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。
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