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恐るべきIBMの知財戦略、なぜ太陽電池に賭けるのか?知財で学ぶエレクトロニクス(5)(3/6 ページ)

米IBMは太陽電池の開発に熱心に取り組んでいる。IBMはICT企業であり、エネルギー関連のハードウェアは守備範囲外のはずだ。なぜ太陽電池に取り組んでいるのか。さらに太陽電池の開発・量産では先行する企業が多く、今からIBMが開発を進める理由が分かりにくい。今回の「知財で学ぶエレクトロニクス」では、IBMの知的財産(知財)戦略において、太陽電池がどのような位置を占めるのかを、特許出願状況の調査と併せて解説する。

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IBMのCZTS太陽電池に関わる米国公開特許出願状況

外国特許データベースの検索により、IBMのCZTS太陽電池に関わる米国公開特許出願状況

の調査を試みた結果を以下に示す。

  • IBMからは、米国公開特許16件が出願されていることが分かった。
  • IBMの米国公開特許調査には、技術用語CZTSだけでなく、CZTSの構成元素(Cu、Zn、Sn、S/Se)の規定が有効であった。
  • IBMはシステムまでも手掛ける企業であり、米国公開特許調査には太陽電池という用途の指定が有効であった。
  • 2009年10月27日には、IBMからCZTS米国公開特許(US20110094557)が出願されている。

安価かつ高効率を目指した太陽電池の開発

 太陽電池用材料の選択指針として、シリコン(Si)を起点とする化学量論的置換ダイヤグラムがある(図A-1)。

 化学反応における量的関係に関する理論から太陽電池に利用する元素の組み合わせを説明するものだ。このダイヤグラムは、周期律表のIV族を化学量論的に実現する組み合わせを階層的に示すものであると同時に、太陽電池材料を網羅するものになる。CZTSは化学量論的置換ダイヤグラムの第3階層に登場する組み合わせである。


図A-1 シリコン(Si)を起点とする化学量論ダイヤグラム 太陽電池の発電層として良好な性質を示す半導体であるシリコン。シリコンのように太陽電池材料として適した元素の組み合わせ(可能性)をこのダイヤグラムで示すことができる。出典:H. Flammersberger, “Experimental Study of Cu2ZnSnS4 thin films for Solar cells”, Uppsala Universitet(2010)(PDF


CZTS太陽電池をめざすIBMの共同開発戦略

 CIGS太陽電池から始まり、CZTS太陽電池へと継続されている東京応化工業との共同開発を続けてきたIBM。しかし、台湾DelSolarやソーラーフロンティア(昭和シェル石油の太陽電池事業担当関連会社)との共同開発関係を次々と構築してもいる。その目的は何であろうか?

 2010年9月27日に、IBMは太陽電池の生産を手掛ける台湾DelSolarとCZTS太陽電池の共同開発に合意した*12)

*12) DelSolarが発表したニュースリリース(PDF)。

 その翌月の2010年10月19日には、IBMはCIS太陽電池の製造・販売事業を手掛けるソーラーフロンティア(昭和シェル石油の太陽電池事業担当関連会社)とCZTS薄膜太陽電池セルの共同開発を行うことで合意した*13)

*13) ソーラーフロンティアの発表資料(Webページ)。

 これら一連のIBMと各社の共同開発合意の背景は、つぎのように考えられる。

  • データセンターに必要な電力確保の手段となり得る、CZTS太陽電池の製造を任せることのできる企業として、IBMは台湾DelSolarとソーラーフロンティアの2社を囲い込むことができた。
  • 太陽電池製造事業に取り組むDelSolarにとっては、次世代太陽電池の有力候補として台頭したCZTS太陽電池への事業的布石を打てる。それと同時に、太陽電池の大口顧客となるデータセンター建設を、新興国と米国で推進するIBMとの関係を構築できたことになる。
  • CIS太陽電池で、再生可能なエネルギー事業開発を進める昭和シェル石油にとっては、インジウムを必要とするCIS太陽電池の次に備えた技術開発への着手になる*14)
  • ソーラーフロンティアにとっては、すでに製造法を確立したCIS太陽電池と類似した構成をもつ、CZTS太陽電池の将来性には魅力がある。
  • IBMにとっては、CIS太陽電池を量産、事業化したソーラーフロンティアの実績は信頼に値するものである。

*14) 昭和シェル石油グループのCIS太陽電池への取り組みは以下の通り(Webページ)。1993年:CIS太陽電池研究開発をNEDOから受託、1995年:CIS太陽電池の事業化を決定、2006年:昭和シェルソーラーを設立、2007年:商業生産開始、2010年:昭和シェルソーラーからソーラーフロンティアへ社名を変更、2011年:1GW級生産工場を建設。

 各社合意の2年後、2012年8月30日、CIS太陽電池事業に取り組むソーラーフロンティアは、IBM、東京応化工業、台湾DelSolarの3社と共に、CZTS薄膜太陽電池に関する共同開発の成果として変換効率が11.1%に達したことを公表した*15)

*15) ソーラーフロンティアのニュースリリース(Webページ)。

 この成果について特許出願状況を調査した。まず、ソーラーフロンティアのCZTS太陽電池日本特許出願に注目したが、日本公開特許は全て親会社である昭和シェル石油から特許出願されていることが分かった。そこで、昭和シェル石油の日本公開特許出願に注目した。

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