会議は、非リアルタイム系の“読み書き戦”に持ち込む:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(15)(1/6 ページ)
「たった一人の軍隊」となって海外出張先に乗り込んだあなた。あとは当日、相手企業との会議という名の「戦闘」に挑むだけ――。もしもこう考えているなら、それは大きな間違いです。英語に愛されない私たちは、会議当日を「戦闘完了時」と考えなくてはなりません。では、それまでにどんな準備をすればよいのか。私たちに最も適した戦法を“未来完了戦略”と名付け、今回の実践編(ミーティング準備[国内戦])で公開します。
われわれエンジニアは、エンジニアである以上、どのような形であれ、いずれ国外に追い出される……。いかに立ち向かうか?→「『英語に愛されないエンジニア』」のための新行動論」 連載一覧
以前にもお話ししたかと思いますが、私は2年ほど、共同製品開発のため、米国コロラド州にある大手のIT会社に赴任していたことがあります。
私はそこで、
- 快活にチームの仲間と気楽な会話を楽しみ、
- 自分が信じる技術のために、エンジニアのプライドをかけて激しい議論を行い、
- 週末は、同僚のホームパーティーで、日本での楽しい逸話を、ジョークを交えながら披露し、
- CNNを見ながら、世界情勢と経済について妻とディベートする
――などということを、ただの一度もやったことがありません。
こういう日本人、小説やマンガでは登場しますが、大部分は空想、妄想の類いと信じます。だって、見たことないのですから。
「外国行けば、何とかなる」は正解ではありません。
「外国行けば、何とかなる『人もいる』」が正解です。
さて、その「何とかならなかった私」に関して申し上げますと、
- 日本人の同僚が7人いて、そのうち一人はリエゾン(現地の会社と、私の勤務する会社の仲介/つなぎ役)を兼任していたので、技術以外の業務上の問題は彼に任せっきりでしたし、
- CNNは、当時も今も、私にとっては英語が流れているだけのニュース番組であるし(9/11米国多発テロは、日本にいるお義母さんの国際電話で知ったくらいだし)、
- その部署のマネジャーが主催するホームパーティーでは、嫁さんの横でニコニコ笑っているだけでしたし、
- ランチは、あくまでランチ(一緒にご飯を食べるだけ)
でした。
「よく、それで外国で仕事ができたものだな」と、あきれ、驚かれるかもしれません。もちろん、最低限の会話は試みていました。仕事ですから。しかし、コロラド州にあるその会社は、努力と根性で何とかなるような世界ではなかったのです。
私の周りには「オブジェクト指向プログラミング」という題名の教本を自ら執筆している、「超」を冠するウルトラスペシャルプログラマーが、ごろごろしているような職場でした。仕事をしていると、隣のパーティションから顔を出して、"Hi, Tom!"(米国での私の名称(トム))と言いながら、気さくに声をかけてくる「神」がいる――。
冗談抜きで、本当にそんな環境だったのです。その本を使って勉強している最中の日本人プログラマーが、技術に関する議論なぞできようはずがありません。
では、なぜ私が、このように、神様が群生しているようなハレルヤ、ヴァルハラ天上界において曲がりなりにも2年間を過ごしてこられたのか。その理由は、世界が、その時代においてすごい武器を用意しておいてくれたからでした。
ずばり、「電子メール」です。
カギは、“未来完了戦略”
こんにちは、江端智一です。
前回の入国編では、
- 海外出張とは、単身で武器を持って乗り込む外交、つまり「たった一人の戦争」であり、
- あなたは、「たった一人の戦争」を遂行する、戦略の立案を行う将官であり、戦術を指揮する指揮官であり、戦闘を行う兵士であり、そして、同時に、兵站(へいたん)を行う工兵でもある、「たった一人の軍隊」である
と定義しました。
今回のミーティング準備編では、「たった一人の軍隊」である私たちの戦い方を、ホテルの話を交えながらお話したいと思います。
「戦い方? それはミーティング当日の話だろう」と思われたあなたは、正しい。しかし、思い出していただきたいのです。われわれは「英語に愛されないエンジニア」です。そのようなエンジニアが、英語という砲弾が飛び交うミーティングの最前線で、まともに戦えると本気で思いますか。
「英語に愛されないエンジニア」は、武器を携行せずに戦場に投入される兵隊のようなものです。これでは、戦場でむざむざと殺されても仕方がありません。私たちは、戦いに勝利しないまでも、敗北してはならないのです。少なくともドローに持ち込む戦いをしなければなりません。
私が本日ご紹介するのは、前回の入国編に引き続き、戦争で実際に戦う部隊を支援する活動――兵站――を最重要視した、「未来完了形」の戦略です。
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