ホテルは“最後の戦場”である:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(16)(4/5 ページ)
たった一人で海外出張という名の戦争を行うあなたにとって、ホテルは、滞在を楽しむための場所ではありません。ホテルとは兵站(へいたん)拠点であり、作戦司令室であり、実は“最後の戦場”でもあります。今回の実践編(ミーティング準備[ホテル戦])では、ホテル選びの鉄則をはじめ、戦いに勝つためのホテル活用法をお伝えします。
忘れちゃいけない、食事戦と安全衛生戦
それ以外の戦闘についても、付け加えておきます。
「食事戦」では、個人差があるので一概には言えませんが、私の場合、近くの店でサンドイッチ、ビール、ミルク、サラダなどを購入して、一人、ホテルの部屋で食事をするのが好きです。時間をかけてのんびり食べられますし、メニューを読んだり注文したりすることにエネルギーを使いたくないからです。
緊張などで食欲がなくても、何か口に入れるようにしてください。エネルギーを取り入れていないと、現地で簡単に故障(病気)してしまいますから。
「安全衛生戦」では、日本との気候の違いから、体にいろいろな変調が生じてくることを予測して、各種の準備が必要です。私の場合、常備薬専用の布袋を用意して、その中にさまざまな種類の薬を放り込んであります。
準備する常備薬の目的は「治癒」ではありません。「痛い」「苦しい」といった痛覚、苦痛の「遮断」が目的です。
具体的には、
- どんな激痛も全く感じなくなる強烈鎮痛剤(→ただし、直進歩行が不可能[蛇行]になってしまう)
- 7時間は完全に意識を失わせる睡眠薬(→ただし、もしホテルで火事が起きたら、それは死を意味してしまう)
- どんな下痢でも完全に停止させる整腸薬(→ただし、ウイルス、細菌の体外放出も妨げてしまう)
- じんましん、花粉、ありとあらゆるアレルギーの症状を沈黙させる抗アレルギー剤(→ただし、免疫機能も破壊してしまう)
という薬が入っています。
これらの常備薬の入手経路は明らかにできませんが、まあ、世界中にはいろいろな薬物マーケットがある、ということで、あまり深く突っ込まないでください。
痛覚、苦痛を「遮断」して、兵士(=自分)を現地に戦力として送り込むことができれば、兵站としての役割は十分です。なにせ、「現地で医薬品を購入」「現地で医者にかかる」というような、想像を絶する面倒に関わりたくないのですから。
なお、兵站拠点であるホテルで“やってはならないこと”も羅列しておきます。
ホテルアメニティである、プール、サウナなどの利用はお勧めしません。面倒なことに巻き込まれることもあるからです。
作戦(出張業務)が完了するまでは、観光などもやめておいた方がいいでしょう。ミッションが終了するまでは、業務に集中しておいた方がいいということもありますが、海外は危険と面倒であふれ返っているからです(付録1参照)。
絶対に「火器」では撃ち合わない
最後は「(3)フィードバック戦」になります。
これについては次回紹介しますので、ここでは簡単に要点のみ述べます。
重要なのは、ミーティングにおいても、議論をせずに、議論の内容をホテルに持ち帰ることです。私たち「英語に愛されないエンジニア」が、議論――すなわち最前線において火器で撃ち合う――になったら勝ち目はありません。
その日の戦いはドローに持ち込み、議論の内容を持ち帰ってホテルで検討する、または本国の大本営(職場の上司や同僚)に相談するという、前半の「(1)(b)電子メール戦」のホテルバージョンを実施すればよいのです。
それでは今回の内容をまとめます。
海外出張における戦い方として、「未来完了戦略」を提案します。
「未来完了戦略」とは、本来ミーティングで実施すべき事項を、ミーティング直前までに「完了」させるという、「英語に愛されないエンジニア」に特化した戦略です。
この戦略による戦闘は、海外出張命令の発動からミーティング前日までの全期間にわたって実施され、「国内戦」「ホテル戦」「フィードバック戦」にフェーズ分けされますが、その目的はただ一つです。
私たちが不得手とするリアルタイム系の英語の「会話」によるミーティングを回避して、得意とする非リアルタイム系の英語の「読み書き」による戦闘に持ち込むことにあります。
次回からは、いよいよ本連載の本丸、「プレゼンテーション編」に入ります。
今回、お話した「未来完了戦略」による戦闘を、有効かつ直接的に、ミーティング当日のプレゼンテーションに連結する方法について論じたいと思います。
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