非核三原則に学ぶ、英語プレゼンのポイント:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(17)(4/7 ページ)
海外でのミーティングに備えてどれほど準備を前倒ししようとも、当日はやはり、英語でプレゼンテーションをしなくてはなりません。ただし、プレゼンにも、われわれ「英語に愛されないエンジニア」が知っておくべきコツはあります。そのコツとは、ずばり、英語での議論が必要になる話題を「持たない」「作らない」「持ち込ませない」こと。つまり、非核三原則と同じように考えればいいのです。
“非核三原則”の落とし穴
実は、上記で説明した「非核三原則」戦略において、「持たない」に問題はないのですが、「作らない」、「持ち込ませない」の戦略には重大な瑕疵(かし)があるのです。それは、あなたは、ミーティングの内容をコントロールできても、ミーティングの出席者までをもコントロールすることはできない、ということです。
先ほども述べたように、多くの場合、頼みもしないのに、その技術者の上司、部長、下手すれば幹部が出席してきます。これらの人は、「電子メール戦」においては完全な部外者であり、そのメールの内容を1通たりとも読んでいないはずです。
これらの人に、あなたが数十から数百通にも及ぶ電子メールの概要を説明することは、無理、というか無茶です。もちろん、われわれが「英語に愛されている」のであれば、これはそれほど深刻な問題ではないのかもしれません。ですが、われわれにはその膨大なメールの背景を明らかにし、その課題と目的を明確に説明する能力がないのです。
つまり、私の提案してきた「未来完了戦略」は、ここで破綻をきたし、ガラガラと音を立てて崩壊することになるのです。
“内通者”を作る
実は、私は「未来完了戦略」において、一つだけお話をしていないことがありました。それが、この破綻を回避する唯一の方法となるのです。
――敵側に内通者(エージェント)を作る
簡単に言うと、交渉相手側に、自分(=あなた)の意図を、現地で説明できるエージェントを配置しておけばよいのです。そのエージェントに、本来であれば私たちが説明すべき事項を、口頭で、上司、部長、幹部に説明してもらえばいいわけです。可能であればわれわれの会社の状況や立場も含めて説明できる程度にまで、完全なエージェントとして仕立て上げることが望まれます。
しかし、現実にそのようなことができるのか疑問があります。会社に交渉して諜報活動の資金を請求するという手もありますが、認可される可能性は絶望的に低いでしょう(だいたい、違法行為です)。「そんな金をせびるくらいなら、ちゃんと英語の勉強をしろ」と、『無駄なこと』を言ってくるに決まっています(課長、部長、幹部は「英語に愛されている人」が多いのです。彼らはわれわれの敵です)。
では現実的に、私たちはどのように対応すべきであるか。
「電子メール戦」でやり取りした相手を、我が方のエージェントに仕立て上げるのです。数十から数百のメールをやり取りする理由は、単に技術的な理解の共有だけが目的ではありません。その相手を、自分の考えに賛同する信奉者となる「シンパ」にしてしまうのです。
あなたは「電子メール戦」における全てのメールにおいても、最高の役者魂を発揮し、あなたの会社において誰もが一度も目にしたことがない(そして、あなた自身すらも見たことがない)ような、りりしく、理知的で、決断力に富み、寛容な心と冷静な判断力にあふれた、ヴァーチャルな自分を演出しなければなりません。
そして、その中で、「自分が英語に愛されていないこと」を切々と語り、それでも闘わなければならない現実を説明し、自分のことだけではなく、自分の会社の背景や目的を本音レベルで語り、文面の最後には、「あなただけには打ち明ける」「誰にも内緒にしてほしい」というフレーズをつけて、必要なら自分の悩みまでも打ち明けることにも躊躇してはならないのです。ミーティングにおいて自分が英語で上手く説明できないであろうこと、そして、「私が困った時には助けてほしい」と、何度もお願いする文章を切々と続けることが必要です。
そして、ここが大切ですが、上記を「心底から誠実に本気で行う」ことが必要です。偽りの演技では、かならず化けの皮がはがれます。「本気の演技」こそが、人の心を動かすのです。
これだけ長い文章を書きましたが、一言で言えば、本気の「泣き落とし」をやれ、と申し上げております。
あなたは、既に「未来完了戦略」においても、役者であることを自覚しなければなりません。あなたの演技力が、ミーティングの成否を決定するといっても過言ではないからです。
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