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“上司活用”のススメいまどきエンジニアの育て方(最終回)(2/2 ページ)

今回は、若手の視点でお話しようと思います。ずばり、“上司の活用法”。上司を“使う”だなんて畏れ多い――。そう思うかもしれませんが、社会人の先輩であり、人生の先輩でもある上司やベテランエンジニアの知識や経験を上手に使わせてもらうことは、若手エンジニアにとっては重要なことなのです。

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多面的に関心を持たせる

 新卒から2年目くらいの若手エンジニアにとって大事なことは、まずは専門性を高めることです。そのために、“知識”を貪欲に吸収する。エンジニアは生涯、勉強が欠かせません。専門書、Webサイトなどを参考にして、まずは若手が自分自身で学ぶことが大前提になります。何も勉強もせず、また調べもしないで上司に答えを求めてきたら、それは叱り飛ばしてください。最初は自分の頭できちんと考えるという癖をつけさせましょう。

 “知識”は外(=自分以外)から得ることはできますが、“知恵”は考えなければ生まれません。“経験”は積まなければ得られません。ベテラン社員は、若手が“知恵”や“経験”を得られる機会をどんどん作ってあげましょう。


写真はイメージです

 さらに、専門分野以外、とりわけ開発部門と縁が深い企画・マーケティング部門や製造部門が、どのような業務を行っているかを若手が学べる機会を設けます。設計のインプットとアウトプットの両方に通じたエンジニアは、そうでないエンジニアに比べて、設計や設計思想のレベルが明らかに高いものです。

 専門性を高めることは重要ですが、専門性を高めてから他を伸ばすのではなく、専門性を高めながら、多面的に関心を持たせ、学ばせることで、早い段階から厚みのあるエンジニアとして育てていきたいですね。若手からすれば、一見遠回りで余計なことのように思えても、10年後には必ずこの時の経験が生きて、当時の先輩や上司に感謝する日が来ることでしょう。

開発以外の現場に積極的に参画させる


写真はイメージです

 では、どうやって専門性以外のことに関心を持たせればいいのでしょうか。答えは簡単で、「参画させればよい」のです。

 開発の後工程である製造現場に開発エンジニアが直接、参画することは難しいですが、自分が設計した図面が現場でどのように使われているかを知ったり、製造現場の人と仲良くなったりするだけでも十分意義があります。

 一方、前工程であるマーケティングや企画においては、製品コンセプトを練る場面に若手を参画させることが効果的です。「まだ経験が浅いから」「新人だから」という“上から目線”ではなく、「ピュアな視点で率直な意見をもらう」ように大きく構えていましょう。若手からすれば、コンセプトメイキングの場を共有したことで、後にそれらのコンセプトが仕様書などに落とし込まれた際に、仕様に対する納得度や、開発する製品への意欲が高くなります。

 前工程や後工程の場を実際に経験させようとすると、部門間の調整が発生し、「余計な仕事」や「越権行為」などと上司が言われてしまう場合もあるでしょう。しかし、そこはひと肌脱いで調整能力を発揮したいものです。

キャリアデザイン

 高い専門性とともに、開発周辺の多面的な知見を持ち合わせているエンジニアは、今後、確実にニーズが高くなると筆者は予想しています。“スペシャリスト”と呼ばれる専門家を目指す道もありますが、例えば、40歳を超えてから新しい技術を身に付けたり、最先端の技術だけを追い続けたりすることは現実的にみて難しいものです。エンジニアをやめるのではなく、エンジニアとして開発現場との関わり方を考えていくべきでしょう。その時にはもう1つ、“ゼネラリスト”としてのマネジメント能力も持っていることが求められます。

 かつては、“スペシャリスト or ゼネラリスト”の二者択一でしたが、今ではこの両方を備えたエンジニアが求められています。そのために、専門性以外の知識を高め、多くの現場に参画しながら、“プロフェッショナル”の道に進む。今はこういう時代です。

若手が育つ環境作り

 これまでに何度か、「職場ぐるみで若手を育てる」「OJTトレーナーに任せきりにしない」などの話をしてきましたが、「どうやってやればいいの?」という疑問はまだ残っているでしょう。

 シンプルながら効果が大きいものは、「インフォーマルな場」を設けて、職場におけるコミュニケーションの密度を上げることです。むやみやたらと会話しろ、と言っているのではありません。“密度”という言葉が意味するように、大事なことはコミュニケーションにかけた時間ではなく、中身です。同時に、コミュニケーションが取りやすい雰囲気を作ることが重要です。

 先輩社員や上司が忙しそうにしているから、若手は遠慮して相談できない――。こういうことがあってはなりません。だからといって、いつも上司や先輩たちから、「悩みはないかい?」と聞かれるのも若手にとってはストレスです。若手がベテラン勢に自然に相談できる環境を作ることが、若手が育つ環境を作ることになります。

 先述した「インフォーマルな場」は自然発生的にできるものではないので、意図的/意識的に作る必要があります。このような場を仕掛けて人間関係や信頼関係を構築し、若手が育つ環境を作ることも上司の仕事であると認識しましょう。

“いまどきエンジニア”が上司になる頃には……

 今回書いた内容は、これまで22回にわたって書いてきた記事の要旨に、一部加筆したものです。ぜひ、復習もかねて、これまでの記事にひと通り目を通していただければ幸いです。

 “いまどきエンジニア”が、いつの日か過去を振り返る余裕ができた頃に、「会社に育ててもらった」「今の自分があるのは、○○さんのおかげだ」と言ってもらえるようになりたいですね。まぁ、その頃には上司である皆さんはリタイアしているかもしれませんが、若手が育ったことを素直に喜べる上司でありたいものです。きっとその頃には、今の若手が上司や管理職となり、「いまどきの若手は……」と言っているかもしれません。


Profile

世古雅人(せこ まさひと)

工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。

2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。



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