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誰も望んでいない“グローバル化”、それでもエンジニアが海外に送り込まれる理由とは?「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(18)(6/6 ページ)

今回は実践編(プレゼンテーション[後編])です。前編ではプレゼンの“表向き”の戦略を紹介しましたが、後編では、プレゼンにおける、もっとドロドロした“オトナの事情”に絡む事項、すなわち“裏向き”の戦略についてお話します。裏向きの戦略とは、ひと言で言うなら「空気を読む」こと。ではなぜ、それが大事になってくるのでしょうか。その答えは、グローバル化について、ある大胆な仮説を立てれば見えてきます。

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(付録)海外に長期赴任が決まった後輩A君に贈ったメール

 この文章を執筆している最中に、昔、突然海外赴任になった後輩に送ったメールを思い出しました。それを探してみましたが、原文が見つからなかったので、今回は思い出しながら書き出してみます。

親愛なるA君

君が海外に長期赴任になるという話を聞いた。
多くの所員は、このことを大抜擢だと言っているかもしれない。
また、人によっては、君をうらやましがり、あるいは嫉妬しているかもしれない。

しかし、私は知っている。
君はこの赴任を、「理不尽なミッションを負わされた」と感じているだろうことを。
我が社の体制はもちろん、現地の体制も見えず、責任者すら明確でないということを、私は知っている。

背景、前提条件、契約内容、課題、目標、マイルストーンも不明なままで、かつ、赴任先でも赴任元でも十分なサポート体制が構築されていないのにもかかわらず、いきなり現地に放り込まれることに、今まさに、君は、激しい憤りを感じているのかもしれない。

いや、間違いなくそう感じているだろう。

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今私は、ここで、君の先輩として、また一人の管理者として、そして、なにより海外赴任の経験者として、君に伝えなければならないことがある、と思っている。

これから、君が異国の地で文字通り死ぬほど苦労することは、これからの君の人生に

『何の役にも立たない』

であろうことを。

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これから、君は、海外の仕事でロクな目に合わない。
そして、それを回避する手段が「絶望的に存在しない」ことを私は知っている。
このプロジェクトは、奇跡的な幸運がやってこない限り頓挫するだろう。

しかも、君に海外赴任の命を与えた立案者は、責任を負わずに逃げる。間違いない。
それだけならまだしも、厚顔甚しくも、逆に君を叱責し、責任を追及してくるに違いない。
君は、人生でかつて経験したこともないような「理不尽」の豪雨を浴びることになるだろう。

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なぜ、そんなことを私が断言できるか、君は不思議に思うかもしれない。
なぜなら、7年前に、私がそのような目に遭ってきているからである。
そして、私が君に海外赴任を命令する側に立つのであれば、間違いなく、同じことをするであろうことを、自分自身で確信できるからである。

私は、私の利益のために、君たちに犠牲になってもらうことに、ためらいはない。
そもそも私は、君たちの不利益をおもんばかって、業務命令などしたことはないのである。
「後のことは、後で考える」が、世界中の上司の基本的な行動原理だ。
よい機会だ。
ぜひ、覚えておいてほしい。

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だから、まあ、プロジェクトの成否はどうでもいいから、

『気楽に行ってこい』

江端智一



本連載は、毎月1回公開予定です。アイティメディアIDの登録会員の皆さまは、下記のリンクから、公開時にメールでお知らせする「連載アラート」に登録できます。


Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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