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IRのオーディオアンプ開発責任者「D級アンプはAB級を超えた」オーディオ処理技術 D級アンプ(1/2 ページ)

モバイル機器、薄型テレビのオーディオアンプとしてのイメージの強い「D級アンプ」。しかし、最近では、100万円を超えるような高級オーディオ機器でもD級アンプが搭載されそのイメージは変化しつつある。D級アンプでプレミアムオーディオ機器市場を切り開いてきたインターナショナル・レクティファイアーのD級アンプ製品開発責任者に聞いた。

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 オーディオアンプには、A級、B級、AB級といったリニアオーディオアンプと、アナログ信号をパルス幅変調(PWM)などの矩形(くけい)波に換えてトランジスタをオン/オフさせ音を増幅させるD級アンプがある。D級アンプは、リニアオーディオアンプと対比して“デジタルオーディオアンプ”と呼ばれることもある。

 D級アンプは、A級、B級、AB級といったリニアオーディオアンプに比べ、電力効率が良く、回路規模を小型化でき、コストも低く済むという利点がある。その一方で、音質に関しては、スイッチングなどで発生するノイズの影響を受けやすく、ひずみが生じやすいことなどからリニアオーディオアンプに劣るとされてきた。

 そのため、音質よりも、低い消費電力、小さなサイズ、低いコストが優先されるバッテリー駆動のモバイル機器や、薄型テレビなどがD級アンプの主な応用用途となった。言い換えれば、音質が最優先される高級オーディオ機器やプロ用オーディオ機器では、AB級アンプを中心としたリニアオーディオアンプが使われ続けてきた。

プレミアムオーディオでのD級アンプ搭載が拡大


D級アンプを採用するパイオニアの9チャンネル、720W出力AVアンプ「SC-LX57」 出典:パイオニア

 しかし、昨今では、その流れが変わってきている。国内音響機器メーカーであるパイオニアは、2013年7月発売の9チャンネル、720W出力AVアンプ「SC-LX57」でD級アンプを採用した。さらには、新興音響機器メーカーのスペックは、100万円を超える価格の高級サラウンドアンプ「RSA-F1」などでD級アンプ採用製品を投入している。

 これら、従来はAB級アンプが用いられてきたであろう高級オーディオ機器で採用されるD級アンプがインターナショナル・レクティファイアー(以下、IR)のオーディオ向けパワーMOSFET/MOSFETドライバだ。

まずは「保護回路」の開発に着手

 モーター駆動用パワーMOSFETなど世界的なパワー半導体メーカーであるIRが、本格的にD級アンプ製品事業を始めたのは約10年前。それまで、AB級アンプの設計などを手掛けてきた本田潤氏(現:IRオーディオシステムエンジニアリング担当ディレクター)がIRのD級アンプ製品の開発責任者に着任して以来だ。


インターナショナル・レクティファイアーでD級アンプ製品の開発責任者を務める本田潤氏

 「開発に着手したころのD級アンプは、(AB級アンプと比べ)ひどいものだった」と振り返る本田氏は、あらゆる側面からD級アンプの見直しを実施。その中で、まず着手したのが、保護回路だった。

 AB級アンプなどのリニアアンプの開発試作は、電力負荷を少しづつ重くしながらデバイスの動作確認を行う。挙動がおかしければ、デバイスが壊れる前に改善の手を打つことができる。

 一方で、D級アンプの場合、出力段のMOSFETは、オン、オフのいずれかだけで、「少しだけ負荷をかける」ということができない。「デバイスが破壊されれば、原因究明も難しくなる。D級アンプの開発では、電源をオンするたびに出力段が壊れ、部品交換を繰り返すという大きな手間があった」とし、本田氏は開発効率を高める狙いも含めFETを過負荷から守る保護回路を徹底して研究。それまでリニアオーディオアンプと似た保護回路を用いたD級アンプに適した高速応答の保護回路を開発した。「絶対に壊れない保護回路」と、自ら“保護回路マニア”と称する本田氏は胸を張る。「この保護回路は、われわれだけでなく、音響機器メーカーの開発現場でも重宝されているはず」とIRのD級オーディオ製品の強みの1つとなっている。

 強い保護回路でリニアオーディオアンプと同様の効率的な開発体制を作り、D級アンプの最大の課題である音質の改善を加速させる。

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