自動運転車や農林ロボットにみる「世界のロボット事情と日本の現状」:ビジネスニュース 業界動向(2/2 ページ)
米国電気電子学会(IEEE)は「世界のロボット事情と日本の現状」と題するプレスセミナーを開催した。IEEEフェローで東北大学大学院教授の小菅一弘氏、IEEEフェローで早稲田大学理工学術院教授の菅野重樹氏および、早稲田大学理工学術院准教授(主任研究員)の白井裕子氏らが、世界に目を向けた研究開発の重要性や、農林業向けロボット開発の現状などについて説明した。
収穫適期のイチゴを判別して、夜間に自動で収穫
続いて登壇した菅野重樹氏は、「農林業へのロボットの展開」と題して、農林水産省の次世代農業機械等緊急開発事業として開発した「イチゴ収穫ロボット」の概要を中心に説明した。
菅野氏はまず、ロボット産業の現状に触れた。ロボットの市場規模は2011年に約6628億円となっており、このうち日本が50%を占めるという。「現在は自動車が日本の基幹産業となっているが、次に主導権を握るのはロボット技術(RT)である」(菅野氏)と主張する。ただ、「ロボット研究の開発成果は実用に結び付きにくく、技術としては注目されるが産業としては発展しづらい」と指摘する。RTを発展させるためには、現在市場が確立している製造ライン向けロボットに加えて、中小規模市場に向けた製品や技術の開発が重要となる。「これらの領域にはシステムインテグレーターが介在して、市場のニーズを発掘する必要がある」と話す。そして、より専門的なシーズを開発していくのが大学の役割と位置付ける。
ロボットの新しいアプリケーションの1つとして菅野氏らが期待しているのが「農業・林業」分野である。作業者の高齢化が進む中で、作業支援ロボットを開発し、現場に導入することにより、安全・安心で作業能率を高め、結果的にコストダウンを目指していく。
菅野氏は、農林業向けロボット開発を2つの製品に分けて紹介した。その1つが「イチゴ収穫ロボット」である。ロボットの概要は関連記事を参照していただきたいが、このロボットは夜間に施設内を移動しながら、収穫適期のイチゴを判別したうえで、その60%以上を収穫して搬送する。1台で10a程度の栽培面積に対応できるという。菅野氏は「ロボット導入には環境構造が重要だが、イチゴは高設栽培(高い場所で栽培すること)が普及しつつあり、機械化に向いている」とその有用性を挙げた。
「受け口・追い口伐り」や「三つひも伐り」に対応
山林での樹木伐採や枝打ち、荷運びなどを目的とした、もう1つの「森林ロボット」の概要や開発の狙いについては、白井氏が登壇して説明した。今回紹介したのは伐倒ポータブルマニピュレータ「巽」(tatsumi)、伐倒マニピュレータ「天竜」(tenryu)、および林地内走破モビリティの3つの開発品である。
白井氏によれば、日本における林業従事者は約5万人で、人工林の手入れなどに20万台のチェーンソーが用いられているという。さらに、作業者の死傷事故も多く、日本では10日に1人の割合で死亡事故が発生しているといわれている。林業機械としてはチェーンソーなどの従来型と、ハーベスタなど主に欧米で開発された高性能機械などが用いられている。ところが、「日本の山林は急斜面が多く、地形が複雑で、地面も比較的柔らかい」(白井氏)といった特殊な事情がある。このため比較的なだらかな丘陵地で用いられることが多い欧米製の高性能機械は、日本の山林では作業に適合しないこともある。
そこで白井氏らの研究グループでは、日本の地形や伐採作業のニーズを取り込んで、従来型でも高性能型でもない林業機械を開発し提案したという。例えば、伐倒手法として伝統的な技である「受け口・追い口伐(ぎ)り」や、「三つひも伐(ぎ)り」などに対応するなど、熟練作業者の経験や職能を必要とする難易度の高い作業を補助できる装置として開発しているのが特長だ。
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