カーボンナノチューブから生まれたプロセッサ、動作に成功:材料技術
米大学が、カーボンナノチューブ製のトランジスタ178個を集積したプロセッサを開発した。MIPSアーキテクチャの命令セットのうち、20個の命令を実行できるという。
米スタンフォード大学(Stanford University)の研究チームは、カーボンナノチューブ(CNT)製のトランジスタを集積したプロセッサを開発したと発表、実際の動作も披露した。CMOSの設計プロセスにナノチューブを統合することで、カーボンベースの半導体が直面する大きな課題を克服したという。
CNTは、直径0.4〜50nmの筒状のピュアカーボンで、約10年前に理想的なトランジスタ材料として登場した。CNTトランジスタは、シリコントランジスタと比べて、電子移動度が速く、消費電力が低い。CNTはこれまでにもIBMなどが発表しているが、2つの問題があったため本格的な開発には至らなかった。
2つの問題とは、完全な直線状のアレイを構築できないことと、半導体性CNTと金属性CNTの選別が難しいことである。その結果、現在では大部分の研究者が、CNTからグラフェンに研究対象を移行させている。グラフェンは、従来のCMOS技術を適用しやすいからだ。
スタンフォード大学の研究チームは、今回開発した技術を「欠陥免疫設計(imperfection-immune design)」と呼ぶ。今後は、この技法の開発をさらに進めるつもりだという。
研究チームは、Subhasish Mitra教授とH.S. Philip Wong教授、博士候補生のMax Shulaker氏で構成されている。Mitra教授は、「欠陥免疫設計とプロセス技術の進展により、CNTの使用に伴う課題を克服することができた。われわれが抱えている大きな課題は、設計と製造の両面における、既存のシリコンCMOS技術との互換性である」と語っている。
水晶基板上でCNTアレイを成長させる
同研究チームは、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor
Deposition)により、CNTを正確な配列(アレイ)で並べて成長させることに成功した。
過去にも多くの手法が試されてきたが、CNTはシリコン基板上で成長する過程で曲がってしまうため、正確な配列を作成できなかった。そのため、高密度トランジスタを作成するには、この問題を克服できる最適な設計が必要だった。スタンフォード大学の新しい手法では、まず水晶基板上でCNTアレイを成長させてから、シリコンウエハーにそのアレイを転写する。水晶基板上では、CNTの99.5%が直線状に並ぶという。
欠陥免疫設計技術は、金属性CNTと半導体性CNTの判別が難しいという問題も解決できるという。現在のCNT製造技術では、金属性と半導体性が混在してしまう。これは、CNTをトランジスタチャネルとして使用する場合に問題となる。金属性CNTを使うと、オフできないトランジスタになってしまうからだ。そのため、トランジスタには半導体性CNTだけを使わなければならない。
スタンフォード大学の研究チームは、金属性CNTを除去するために、電気絶縁破壊技術を使用した。まず、すべての半導体性CNTをオフに切り替えてから、金属性CNTに電流を流して破壊する。ヒューズのように、絶縁されている半導体性CNT以外の全ての回路を遮断する仕組みだ。
同チームはこうした手法によって、178個のCNTを搭載したプロセッサを開発し、実際に動作させることにも成功した。このプロセッサは、MIPSアーキテクチャの命令セットのうち20個の命令を実行できるという。
同研究は、米国立科学財団(NSF:National Science Foundation)、SONIC(Systems On Nanoscale Information fabrics Center)、スタンフォード大学大学院生奨学金基金、Hertz Foundation奨学金基金から資金提供を受けて実施されている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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