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ラジオ語学番組に出てくる米国人にリアリティはあるのか?「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(21)(2/4 ページ)

ラジオやテレビの英語講座では、明るくユーモアたっぷりで、決断力にあふれた米国人がしばしば登場します。果たして、米国のオフィスにはこのような人物が本当にいるのでしょうか? さらに、赴任となると、思いもよらない事態に見舞われることもあります。私の場合、9.11のテロが、まさにそれでした。実践編(米国滞在)となる今回は、赴任中に非日常な出来事が起こった場合の対処法について、お話します。

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「ニュースが分からない」という不幸

 改めて言うのも何ですが、「英語に愛されない」ことは、「不幸」なことです。特に、海外赴任を命じられたエンジニアにとっては、超ド級の不幸と言えましょう。

 日常生活――ホームパーティーとか、外国人向けの英語の講座(ESL)とか、近所のスーパーマーケットでの買い物とか――では、「あれ、もしかして海外でも、私ってば結構いけているじゃないの」などとうぬぼれてしまうことがあるのですが、その時期を狙ったかのように、「英語に愛されない自分」を、骨の髄までとことん“思い知らされる”事件は発生します。

 冒頭でご紹介した「核攻撃から逃れる方法」における最大の問題点は、「ニュースの内容がさっぱり分からん」ということでした。


画像はイメージです

 大手のテレビキー局(ABC、CBS、NBC)や、CNNなどを、「速いよ。頼むからもっとゆっくりしゃべってくれよ」と泣きそうになりながら見ていました。インターネットのニュースも「長いよ。頼むから、もっと簡単な単語でサマリ作ってくれよ」と、愚痴を言いながら読んでいました。

 そして、全く何の役にも立たなかったのが、日本から発信されたニュースです。まあ、外国の戦争なんぞは、私を含めた多くの日本人にとって「他人事」ですから、それは仕方がないとも思いますが。

 日本国政府は、邦人救出のために、(放射能汚染されているかもしれない)戦地の近くの空港に、救出用の旅客機を送ってくれるだろうか? しかも、航行が制限されている最中、閉鎖されている海外の国際空港に日本国政府の専用機を到着させることなど、可能なのだろうか?

――だめだ

と、私は3秒で判断しました。

 あの時の米国は「空を飛んでいるものであれば、何であれ撃墜する」という恐怖と怒りで支配されていました。同盟国である日本の民間航空機でも、ためらわずに撃墜したと、私は断言できます。そこには理性もロジックもありません。

 私は「そうか、戦争とは、こんな風に始まるのか」と理解し、そして「戦端を開かない、開かせない」ことが、いかに重要であるかを思い知るに至りました。

「空気を読めない」という不幸

 もう一つ、別のお話をしたいと思います。

 米国の仕事場では、個人の席がそれぞれパーティションで仕切られ、電話が与えられていましたので、隣の席の同僚にちょいと話しかけるというコミュニケーションは成立しにくいものでした。「ノックノック、ちょっと割り込んでいいかい?」という言葉をかけてから、同僚のパーティションに入っていったものです。

 朝礼とか昼礼などという習慣はなく、上司(ボス)からの通達は、録音された電話メッセージで届けられます。ただ、メッセージは何度でも再生できましたから、私には、あまり怖いデバイスではありませんでした。

 ある日の朝、職場が何となくざわついていることを不審に思いながら、自分のパーティションの中に入っていくと、メッセージランプが点滅していました。私は再生ボタンを押して、ボスのメッセージを聞きました。

 ボスは、“pass away”と“sad”、“sorry”というフレーズを繰り返しており、私は首をかしげました。私の知っている“pass away”の意味は1つしかなかったのですが、なぜ、そのような熟語が、この電話メッセージで登場するのか、皆目検討もつきませんでした。

 私の隣のパーティションに座っていた同僚のマイクが死亡した、ということを知ったのは、それから30分後になります。「え? え? どういうこと?? 彼が死んだ? なんで? 先日まで、普通に話をしていたよ?」

 その日の業務は全面中止。日本人チーム“Samurai”は、葬式から埋葬までずっと立ち会うことになりました。まさか、こんなことまで経験することになるとは……、と、ただぼうぜんと、流されるがまま葬儀に参列しました。

 それから2日間、私は訳が分からないままの状態で過ごしていたのですが、3日目の朝に、パーティションに入ろうとするロバートをつかまえて、話を聞き出しました。

 「ロバート。私は彼の死因を知らないんだ。誰もその話をしてくれないし、しているのかもしれないけど、私は理解できていない。教えてくれないかな」

 ロバートは、しばらく考えた後、「僕もちゃんと話を聞いているわけではないんだけど」と言いながら、新聞の切り抜きを私に渡し、あるフレーズを指で示しました。

 そこには『自殺遺族支援団体によれば……』と、書いてありました。

 青ざめていく私の顔から視線を外して、ロバートは、ぽつりと言いました。

 「イッツ スーサイド」

 私は、彼に、本当に「言い難いこと」を言わせてしまったのです。

 陽気な気質と言われている米国人ですが、人間としての「根っこ」は日本人と変わりません。世界共通に、誰だって、言い難いことは言い難いのです。

 「英語に愛されない」ということは、必然的に「空気が読めない」ということも含まれてしまいます。もし私が、その日に会社を休んでいて、かつ、ボスのメッセージの内容を理解できないままでいたら、誰かに「ねえ、彼は、いつから出社するのか知ってる?」などと尋ねていたかもしれません。

 考えるだけで、血の気が引く思いです。

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