イプシロンの無線信号を10分以上記録、ノイズに強い計測システム:NIDays 2013
種子島宇宙センターの指令棟には、ロケットからのデータが随時送られてくる。だが、ロケットの周りの通信環境は、特に打ち上げ時は騒音や噴煙によって不安定なことが多い。このような中、JAXAはロケットからの無線信号を打ち上げから10分以上にわたり記録することに成功した。JAXAは、日本ナショナルインスツルメンツ(日本NI)の開発者向けイベント「NIDays 2013」において、その具体的な方法を紹介した。
毎年数回ほどロケットを打ち上げている独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)。2013年9月14日に打ち上げに成功した「イプシロン」は記憶に新しい。JAXAの総合指令棟(RCC)では、ロケットの状態や飛行状況などを知るために、日本各地、世界各地の受信設備からリアルタイムでロケットのデータを収集している。しかし、ロケットは過酷な環境を飛行していて、電波環境が安定しない。
JAXAの種子島宇宙センターでロケットの打ち上げに従事する油谷崇志氏は、「ロケットの機体とアンテナ間、各アンテナとRCCの間の、両方の通信環境に問題がある」と説明する。「打ち上げ時は激しい振動や騒音、大量の噴煙が発生し、通信環境が特に厳しくなる。そのため、データが化けることがある」(油谷氏)。
JAXAは、スペクトラムアナライザを使って“データが化けている時に何が起こっているか”の解析に取り組んでいた。しかし、スペクトラムアナライザは、RBW(分解能帯域幅)と掃引速度を、ロケットの飛行時間にうまく合わせるのが難しい。さらに、時間軸で見ると断片的なデータしか取得することができないので、データが化ける瞬間を逃してしまう可能性が高かった。そのため、「スペクトラムアナライザを使っても、データが化けたところで何が起こっているかを正確に把握できなかった」(油谷氏)。
スペクトラムアナライザを使っていたこともあったが、「RBWを上げると掃引は十分できるが、時間軸では断片的なので、発生している現象を取りきれているのかが分からない。RBWを下げると掃引速度が遅くなり、掃引しきれないうちにロケットが飛んでいってしまう」(油谷氏)という(クリックで拡大)
当時、「イプシロン」ロケットの打ち上げが間近に迫っていたJAXAは、スペクトラムアナライザに替えて、National Instruments(NI)のシステム開発ソフトウェア「LabVIEW」とモジュール式計測/制御機器「PXI」を導入し、データ集録システムを構築した。イプシロンの打ち上げ時、データ集録に立ち会った日本ナショナルインスツルメンツ(日本NI)は、「まずは時間的に断片的なデータではなく、“ひとつなぎ”の連続したデータを取ることが重要だった」と述べる。
今回は、PXIのシャーシとRF信号アナライザとRF信号発生器、6TバイトのHDDを組み合わせた。
イプシロンからのデータは無線でアンテナ設備に送信され、さらに受信設備に送られる。JAXAはアンテナ設備と受信設備の間にPXIを接続し、アンテナ設備からのデータをPXIに分岐させ、HDDに保存した。
油谷氏によれば「長時間といっても、ロケットを打ち上げる場合は1000秒くらいデータを取得できればよい」と言う。ただし、データ量は1000秒で200Gバイトに上る。
さらに、データの容量よりも重要だったのが書き込み速度だ。「6Tバイトなど、大容量のストレージを手に入れるのは難しくない。だが、今回は200Mバイト/秒の書き込み速度が必要だった。このくらい高速で書き込める製品として、PXIを勧めた」(日本NI)。
サンプルプログラムで対応
今回のデータ集録システムは、数カ月で準備したという。これほどの短期間で準備できたのは、NIが、LabVIEWとPXIのようなハードウェア群に向けて豊富に用意している「サンプルプログラム」があったからだ。幅広い用途を想定して作成されているサンプルプログラムは、数千にも及ぶ。日本NIは、その中からJAXAのニーズに合致したものを選択し、すぐに使えるような状態までシステムを構築した上でJAXAに提供した。
油谷氏は、「IQデータを取りこぼさずに記録できて、繰り返し解析できるのが利点。今後は通信環境について詳しい評価を進める」と述べている。
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