もしも、あなたの大事な人が海外赴任になったなら:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(23)(3/4 ページ)
海外赴任というのは、多かれ少なかれ周りの人間を巻き込みます。そして、赴任するのが「英語に愛されないエンジニア」である場合、周りは、巻き込まれるばかりか、赴任する本人を“守る”という使命まで負う可能性もあります。今回は、海外に赴任する「英語に愛されないエンジニア」が、(1)自分自身である、(2)恋人である、(3)夫あるいは妻である、(4)親である、という4つの視点に立って、“守る方法”を検証します。
(ケース3)「英語に愛されないエンジニア」がパートナーである場合
あなたが望まないのであれば、無理せず、単身赴任していただきましょう。一緒に赴任して、パートナーともども自滅する必要はないからです。
これは嫁さんに聞いた実話なのですが、ニューヨークに赴任となった旦那さんに随伴した奥さんが、街が怖くて一歩も外出できず、それをパートナーにも理解してもらえず、一人で放置された結果うつ病になり、最終的に離婚に至ったそうです。
また、世界中どこにいっても、「日本人コミュニティー」を作って地元の日本人を仕切りたがる人がいるのだそうです。その人は日本人が現地の人と交流することを好まず、「昨日の午後はいなかったわよね。どこに行っていたの? 誰と遊んでいたの?」と、やたら人のプライベートに干渉してくるのだそうです。
『私が誰と何をしようが、アンタの知ったことか!!』と怒鳴りそうになっても、そのコミュニティーの仕切り屋がパートナーの上司の奥さんだったため、角を立てるわけにもいかず、ひどいストレスになったそうです。
しかし、『なんで海外に行ってまで、日本人同士で固まろうとするのかなぁ』と思うのですが、もちろん、その奥さんも「英語に愛されない奥さん」であるからです。
「英語に愛されない」ことは、全ての不幸につながっているようです。
ただですね、あなたが望むのであれば、無理をする価値もあります。
私の経験ですが、海外赴任というのは「夫婦の絆を強くする」というような、甘っちょろい表現では足りず、夫婦を「死線をかいくぐって生き残った戦友」という関係にまで昇華させることができます。
日常生活においてトラブルが発生しても、「それ、アナタのせいでしょう?」などと、のんきに相手を責めている余裕など全くありません。「援護を頼む!」と叫びながら、夫婦でトラブルに突っ込んでいくしかないのです。
脱水症状でグッタリした2歳の娘を抱きかかえて救急病院まで運び、医師の説明を、夫婦で命懸けでヒアリングし、聞いたこともない名前の飲料水を書いた英語のメモを握りしめて、深夜の街中を夫婦で走り回った日々は、今思い出しても胸が締め付けられる体験です。
どこに行くにも夫婦で行動しました。英語に愛されない人間でも、二人なら担当を分担できるからです(嫁さんがヒアリングで、私がスピーキングという担当が多かった)。
嫁さんは、私と同様に「英語に愛されない」という不幸を持ってはいましたが、―― 「コイツになら背中を預けられる」という絶対的な信頼感で ―― 私を守ってくれていたのです。
(ケース4)「英語に愛されないエンジニア」が親である場合
お父さんやお母さんの勝手な都合で、学校を転校させられ、友達と別れさせられるだけでも、十分にひどい話なのに、「言葉の通じない国」に強制連行させられる ―― 理不尽、ここに極めり、です。
大人はいつだって、勝手なことを言います。「見聞が広がる」だの、「語学の勉強になる」だの、「ガイジンの友人ができる」だの、誰がいつそんなことを頼んだ? ―― と、考えているだろうあなたに、まず、お父さんとお母さんの海外赴任プランをたたきつぶす方法を伝授しておきます。
最も効果的なキーフレーズは、「勉強についていけなくなる」とか「受験に不利になる」です。加えて、「日本に戻ってきたとき、私はどうなるの」といって、海外赴任の無計画性を非難します。
これでもダメなら、友人や学校関係者を巻き込み、騒ぎを大きくしましょう。不登校、エスケープ、教師への反抗、教室の窓ガラスの破壊、その他、問題のある行動に出ましょう。可能なら、学校医に「心の病」の心証を抱かせれば、おおむねあなたの勝ちです。
とどめは、お父さんの会社の上司に、「私は友達と別れたくないんです」と泣いて頼めば、この海外赴任の話は確実につぶせます(ただし、お父さんの単身赴任の線は残りますが)。
ただですね、海外赴任は、あなたにとって全くうまみがないわけではありません。
それは、「ファニーな仮装をした海外のクリスマスパーティの写真を、日本の友人に配れる」というような、そういうチンケなメリットの話ではありません(逆に嫌われる)。
日本には、「帰国子女枠」という不思議な受験優遇制度があります。条件は受験する学校によっていろいろありますが、一定期間海外にいるだけ(←ここ重要)で、受験を免除される場合があるのです。
それと(あなたにとってメリットにはならないかもしれませんが)、テレビ、ゲーム、コミックなど、学習を妨げるような娯楽が手に入りにくく、治安の関係から外で遊ぶ機会が少ないため、結果として勉強時間が増えてしまいます。
また、外国語を使わないと生活できないという、完璧な語学学習環境が提供されます。買い物一つのために、現地の言葉を何度も繰り返し練習する環境は、あなたの語学能力を爆発的に引き上げるでしょう。
その逆に、人のウワサ話が全く聞こえない(理解できない)状況や、例えコミュニティーに入れなくても、そこにひとかけらの悪意もない日々は、下手をすると日本の学校の生活より「幸せ」だったりもするかもしれません。
さらに、あなたのことで引け目を感じているお父さんやお母さんは、ことのほか、あなたのことを気にかけますので、海外赴任中の日常生活で、大抵のわがままが通るというメリットもあります。
そして、お父さんとお母さんは、あなたを守るという目的を与えられて、海外生活の日々を生き抜くことができます。つまり、“あなた自身がそこにいること”が、「英語に愛されない」お父さんやお母さんを守っているのです。
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