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人工知能「Watson」でがん患者を救う、ゲノム治療の促進へ医療機器ニュース

IBMの人工知能「Watson」を、がん治療に役立てるための取り組みが始まっている。Watsonを使って、医学研究成果や医学論文、治療の実績などのデータベースを参照、解析し、患者のDNAに合わせたゲノム治療を、効率的に提案することを目指す。

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 IBMとThe New York Genome Center(NYGC:ニューヨーク・ゲノム・センター)は2014年3月19日(米国時間)、IBMの人工知能「Watson」を利用して、がん患者によりよい治療オプションを提供できるシステムの構築に取り組むと発表した。

 同システムには、ゲノム解析専用に設計されたWatsonを使う。Watsonは、米国のクイズ番組で人間のチャンピオンに勝利したことで一躍有名となった。ただ、例えばこのWatsonをそのまま医療分野に応用できるかというと、そうではない。クイズで勝つための知識のみを取り入れていて、医療関係の知識はほとんど持っていないからだ。IBMによれば、医療分野でWatsonを利用するためには、医療関連の専門用語などを学習させなくてはいけないという。このように、ある特定の分野でWatsonを使うには、その分野専用に設計する必要がある。

膨大な医療情報と患者のDNAデータを組み合わせる


画像はイメージです 出典:IBM

 今回Watsonが担うのは、医学研究の成果や医学論文、治験結果、治療実績といった、あらゆる医療情報の検索と解析だ。膨大な量のデータの検索と解釈は、Watsonが最も得意とするところでもある。がん専門医が、Watsonの探し出してきた情報と患者のDNAの情報を組み合わせて、患者により適したDNAベースの治療オプションを1つでも多く提示できるようになることを目指す。

 IBMによれば、「患者から“治療の副作用で髪を失いたくない”という要望を受けたとする。専門医は、Watsonでデータベースを検索し、髪を失うことのないような治療の方法や実績があるかどうかを検索し、その患者のDNA情報と照らし合わせて、そうした治療が可能なのか、あるいは他に適した治療があるのかなどを探し出す。そのようながん治療支援システムを構築することが狙いだ」という。

 まずは、脳腫瘍の患者向けからスタートする。米国では、毎年約1万3000人が、脳腫瘍の1種である膠芽腫(こうがしゅ)で亡くなっている。がんのドライバー遺伝子(がん細胞の増殖を促す遺伝子)が発見されているにもかかわらず、わずかな患者しか、がんの変異に合わせた治療の恩恵を受けていない。患者のDNAに基づいたゲノム治療を提示するには膨大なデータベースを参照する必要があり、専門医にはそのような時間もツールもないからだ。Watsonによって、医療データと患者個人の遺伝子変異の関係を結び付ける時間を、大幅に削減できると期待されている。

 NYGC、ゲノムの研究結果を臨床へ応用することを目標とする非営利組織である。なお、IBMはWatsonの開発を加速すべく、2014年1月に、Watsonを専門に手掛ける事業部「IBM Watson Group」を設立すると発表している(関連記事:IBMが人工知能「Watson」の開発を加速、新事業所設立で10億ドル投資へ)。

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