ワールドカップ開催迫るブラジルの通信インフラ事情:整備が間に合わないかも?(2/5 ページ)
「2014 FIFAワールドカップ」の開催まであと1カ月を切った。試合の様子などの情報を提供するのは報道機関だけではない。数百万人もの観客がSNSを使ってリアルタイムに動画や画像、コメントなどを現地から発信するだろう。ブラジルはネットワーク環境の構築を急ピッチで進めているが、問題も多いようだ。
2013年の「FIFAコンフェデレーションズカップ」(ワールドカップのプレ大会)、2014年のワールドカップ、2016年のリオデジャネイロオリンピックという3つの大型スポーツイベントを利用して、4Gネットワークの導入を促進するのがブラジル政府の狙いだった。
政府に対し、「地方の貧困層を犠牲にして都市部のエリート層を厚遇しようというのか」と懸念する声も上がっていた。しかし、ワールドカップ開幕の直前になって、技術上の障壁や、政府の官僚主義、4G導入を急ぐ中での建設作業の遅延など、政府の方策を疑問視する見方が強まっている。
ネットワークがクラッシュする恐れも
業界団体である4G Americasで中南米地域担当ディレクタを務めるBob Calaff氏は、EE Timesの取材に対し、「政府は、空港やスタジアム、主要道路、主要都市などの公共の場への対応を重要視している。ワールドカップの観光客は、4G通信をある程度利用することはできるだろう。しかし都市部では、トラフィックによってネットワークがクラッシュする可能性がある」と述べている。
米国の4G通信の周波数帯は3.5GHz帯であるが、ブラジルの4Gは2.5GHz帯を利用する。2.5GHz帯は通常、アジアや中東、欧州の一部などで使われている。ANATELは2014年8月、4G移動体通信向けとして700MHz(698M〜806MHz)の周波数帯を2回目のオークションにかける予定だとしている。通信事業者は、2×10MHzのブロックで入札することができるという。
Calaff氏は、「トポロジーに関する課題が残るものの、通信事業者は全体的に、基地局の識別や選定など、さまざまな要素を組み合わせる必要があるようだ。さらに2.5GHz帯では、基地局の密度に対する物理的なサポートに限界がある。700MHz帯において、同程度のユーザー数に対して同レベルのサポートを提供するためには、基地局の数を2倍にする必要がある」と述べている。
電気通信連合であるSinditelebrasilは、コンフェデレーションズカップ開催に向けた無線事業の進捗について、リポートを発表している。それによると、マラカナン(リオデジャネイロ)、ナシオナル(ブラジリア)、ミネイロン(ベロオリゾンテ)といった比較的大規模なスタジアムは、3Gの通信容量が平均2.8Gビット/秒で、1万4000人の同時通信をサポート可能だという。また、4Gのデータ転送速度は平均1.96Gビット/秒で、約9900人のユーザーを同時にサポート可能だ。さらに小規模なスタジアムでは、3Gのデータ転送速度が2Gビット/秒、4Gでは1.57Gビット/秒になるという。
Sinditelebrasilのプレジデントを務めるEduardo Levy氏は、「100万人のサッカーファンがブラジルに来たとしても、通常のサービス全般に対する影響はほとんどないだろう。2013年のコンフェデレーションズカップでは、毎秒1.5台のスマートフォンが計3000万台、新たに接続されたが、ワールドカップではさらにデータ使用量が増加する見込みだ」と述べる。
2013年のコンフェデレーションズカップでは、β版4Gと既存の3Gの検証が行われた。2014年6月のワールドカップでは、数百万台ものスマートフォンが追加接続されることになるため、通信事業者は通信容量について、より現実的に検討していく必要がある。
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