IEEE802.11adの信号解析を従来比1/10のコストで構築可能な評価システム:WTP2014(2/2 ページ)
テクトロニクスは、スペクトラムアナライザ機能搭載オシロスコープ「MDO4000Bシリーズ」と、東京都立産業技術研究センターが開発したダウンコンバータ、日立製作所が開発した60GHz帯性能評価用ソフトウェアを使用したIEEE802.11ad対応評価システムを「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2014」(WTP2014、2014年5月28〜30日)で参考展示した。従来、高額だった同評価システムを「1/10程度のコストで構築できる可能性がある」という。
信号補正技術と回路技術で
ダウンコンバータは、信号を歪ませないため、段階的に周波数を下げる回路構成を用いる。通常、2〜3段の段階を経て、一般的なオシロスコープで対応可能な数GHzにまで周波数を下げていく。そのため、ダウンコンバータのサイズは、20〜30cm角サイズの箱形の装置となる。しかし、展示したシステムのダウンコンバータは、たばこの箱程度のサイズで極めて小さい。
写真右側の銀色の箱が開発したダウンコンバータ。写真左側の黒いケースの箱がアップコンバータ。一般的なダウンコンバータも写真のアップコンバータと同様のサイズであり、開発したダウンコンバータがいかに小さいかがうかがえる。なお、ダウンコンバータの上にある小さな銀色の装置が信号増幅用のアンプで、「近く、ダウンコンバータ内に取り込みたい」(都産技研)としている (クリックで拡大)
この小型ダウンコンバータは、都産技研が開発したもので、「1段で一気に60GHz帯から4.75GHzまで変換する構成のため、部品点数が極端に少なく、小さなサイズになっている」(都産技研開発本部開発第一部電子半導体技術グループ副主任研究員藤原康平氏)という。1段での変換を行えば、当然、信号に与える歪みも多くなる。藤原氏は、「回路の工夫である程度歪みを抑えているが、歪みを完全に抑えることは不可能であり、日立が開発した歪みを補正するソフトウェアを使うことで、測定精度を確保した」という。この小型ダウンコンバータは、「従来のダウンコンバータより部品数が少ないため、1/10程度のコストで製造できる見込み」(藤原氏)と大きくシステムコスト削減に寄与できる可能性を示唆した。
より低価格なオシロスコープで
また同システムのもう1つの特長がアナライザだ。先にも述べたように、2.16GHzの広い帯域幅の信号を解析するには、ハイエンドオシロスコープが必要になるが、展示したシステムのオシロスコープは、テクトロニクスの「MDO4000Bシリーズ/MDO4104B-6」(348万円/税別)。MDO4104B-6は、最大6GHzの周波数で、取り込み帯域幅も2.5GHz以上であり、小型ダウンコンバータからの出力される4.75GHz帯、2.16GHz幅の信号に十分に対応可能。加えて、MDO4000Bシリーズは、スペクトラムアナライザ機能を搭載したオシロスコープ(ミックスド・ドメインオシロスコープ)で、変調解析が行える。「こうした帯域幅で変調解析を行うには高額なオシロが必要だったが、MDO4000Bシリーズはその半額以下だ」(テクトロニクス)。
アップコンバータも
小型ダウンコンバータ、MDO4000Bシリーズを組み合わせることで、「11adの評価、解析に必要なコストを大幅に抑えられ、11ad対応機器の設計開発現場にも導入できるだろう」(テクトロニクス)とする。日立と都産技研の両者は、「市場の反応などを見極めた後、小型ダウンコンバータと(信号の歪みを補正する)性能評価用ソフトウェアを商用化するかどうかを決定したい」とし、製品化時期は未定。また藤原氏は、現状の小型ダウンコンバータは、信号レベルを上げるための増幅器が外付けなので、コンバータ内への内蔵化を進める予定。ダウンコンバータに適用した技術で、アップコンバータも同様に小型化できる見通しであり、市場要求などを見極めながらアップコンバータの開発も進めたい」との意向を示した。
WTP2014でのデモは、日立が開発した信号生成ソフトウェアとテクトロニクス製信号発生器(AWG7122C)を使って3.28GHzの信号を生成した後、アップコンバータを使用し60GHz帯信号に変換。その信号を開発した小型ダウンコンバータ、MDO4104B-6を介し、テクトロニクスのRF解析用ソフトウェア「SignalVu-PC」上で解析する構成で、11adの信号生成〜解析の一連の流れを紹介。SignalVu-PCでは、変調信号の復調結果を2次元の軌跡で表すコンスタレーションやベクトル変調の精度を表すError Vector Magunitude(EVM)を表示し「従来のハイエンド装置で構成した評価システムと遜色ない」(藤原氏)という解析結果をアピールしていた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 異常信号を取りこぼさず検出して捕捉、「802.11ac」規格テストにも対応
ワイヤレス通信向け測定器としてリアルタイムスペアナの役割が高まっている。取り込み帯域幅が広く、間欠的なノイズや頻度の少ない干渉波を取りこぼすことなく検出し、解析することができるからだ。テクトロニクスは、業界に先駆けてリアルタイムスペアナを開発・製品化してきた。新たにIEEE 802.11ac規格のテスト環境なども提供している。 - IEEE 802.11ac規格のテスト環境、テクトロニクスが提供
テクトロニクスは、最新の無線LAN規格である「IEEE 802.11ac」にも対応できる測定器およびソフトウェアを発表した。リアルタイムシグナルアナライザ「RSA5000B」シリーズ、ミックスドメインオシロスコープ「MDO4000B」シリーズ、およびRF解析用ソフトウェア「SignalVu-PC」の3製品である。 - 「超」高速無線LANがやってくる、IEEE802.11ac/adが変えるモバイルの世界(技術編)
2012年以降に実用化されるデータ伝送速度が1Gビット/秒超の高速無線LAN。既存のIEEE 802.11nに比べて大幅な高速化が図られている。そこにはどのような技術が採用されているのか? 「IEEE 802.11ac」と「IEEE 802.11ad」の高速化を支える技術的な側面に焦点を絞って解説しよう。