いずれはスマホでゲノム解析が実現? イルミナが検査チップを開発中:医療技術
Illumina(イルミナ)は、1000米ドルでヒトゲノム配列の解析を行える「HiSeq X Ten」を発表したメーカーだ。2014年1月にはソニーが、「ゲノム情報プラットフォーム」を立ち上げるべく、Illuminaやエムスリーと新会社「P5」を設立することを発表している。Illuminaは、チップ上でヒトゲノム配列を解析できる方法を開発中だ。スマートフォンに同チップを搭載すれば、スマートフォンでゲノム解析が行える日がくるかもしれない。
遺伝子解析ツールを手掛ける米国のIllumina(イルミナ)でCTO(最高技術責任者)を務めるMostafa Ronaghi氏は、2014年6月4〜5日にベルギーのブリュッセルで開催された「IMEC Technology Forum」で、「スマートフォンは、“個人が持つ聴診器”のように機能するようになるだろう」と語った。
Illuminaは2014年1月に、1000米ドルでヒトゲノム配列の解析を行える「HiSeq X Ten」シーケンスシステムを発表している。Illuminaはこの発表以降、遺伝子医学を個人レベルで活用できることを目指し、チップ上でゲノム配列を解析する方法の開発を進めている。スマートフォンにそのチップを搭載すれば、スマートフォンでのゲノム解析が実現する可能性もある。
Ronaghi氏は、「近い将来、主治医は必要なくなるかもしれない。自宅やクリニックで検査をして、その結果を基に専門の病院や医師に診断してもらうことが可能になるだろう。こうした医療が、今後5〜7年以内に実現すると確信している」と述べた。
Illuminaの研究チームは、こうした医療を実現するソリューションの開発に取り組んでいる。Ronaghi氏は、「最大の課題の1つは、実験を中心とする“ウェットサイエンス”と、コンピュータによる理論計算を中心とする“ドライサイエンス”の間で、生物的適合性を持つ解を見つけ出すことだ。検査の中には、10mlもの血液を必要とするものもある」と述べる。
研究チームは、チップ上でゲノム配列の解析を実現するために、電気技術や光学技術などを適用したさまざまな手法の評価を行っている。遺伝子データを抽出・処理するには、30以上のステップが必要だという。
Illuminaは、ゲノム配列解析チップの実現に向け、CEA-Leti(フランス原子力庁の電子情報技術研究所)の協力を得てマイクロ流体回路を開発している。Illuminaは、「この技術を用いて、16サンプルを分析できるチップを2014年7月に発表する予定だ」としている。
もう1つの課題は、クラウド環境の整備だ。用途によっては、100Gバイトのデータが発生する場合もある。特に、タンパク質の分析では大量のデータが必要となる。Ronaghi氏は、「今後は、特に核酸の研究を重点的に行っていく予定だ。当社はゲノミクス(遺伝子/ゲノムの研究)に注力している。ゲノミクスは人体に関する多くの謎を解明できると考えている」と語った。
ゲノミクスは分野としては比較的新しいが、ゲノム配列の解析にかかるコストは大きく減少し、ガン治療や妊娠中の医療処置などに適用することで、多くの命を救ってきた。200億米ドル規模のゲノミクス産業のうち、腫瘍学は120億米ドルを占めているという。次に大きな割合を占めるのが研究用システムの費用で、50億米ドルに上る。急増するヘルスケア分野は20億米ドルで、その他の新しい分野が10億米ドルという内訳だ。
IMECのゲノミクス研究者は、「Illuminaは、ゲノミクスの最先端企業の1つだ」と評している。Illuminaの2014年第1四半期における売上高は4億2100万米ドルで、シーケンサーシステムの売上利益は6000万米ドルを記録した。なお、ソニーは2014年1月、エムスリー、Illuminaとともに、ゲノム研究を支援するための「ゲノム情報プラットフォーム」を日本で立ち上げるべく、新会社「P5(ピーファイブ)」の設立を発表している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ゲノムを2日間で解析、スパコンの利用で
30億個を超える塩基対を持つゲノムを1つ解析するには、何カ月もかかるのが一般的だ。米大学は、スーパーコンピュータを用いて、240のゲノムを2日間で解析したと発表した。 - 補聴器もiPhoneと連携へ、“新しいウェアラブル機器”を目指す
ジーエヌリサウンドジャパンは、「iOS」端末と連携する補聴器「リサウンド・リンクス(ReSound LiNX)」を発表した。Bluetooth Smartに対応していて、「iPhone」などから補聴器のボリュームを調節したり、iPhoneに入っている音楽を聞いたりできる。今後は、サードパーティとの共同開発を通して機能の強化を図る。 - 人工知能「Watson」でがん患者を救う、ゲノム治療の促進へ
IBMの人工知能「Watson」を、がん治療に役立てるための取り組みが始まっている。Watsonを使って、医学研究成果や医学論文、治療の実績などのデータベースを参照、解析し、患者のDNAに合わせたゲノム治療を、効率的に提案することを目指す。