スピンホール効果の電気的制御に成功、スピントロニクスデバイス実現へ前進:プロセス技術
ケンブリッジ大学キャヴェンディッシュ研究所の岡本尚也氏らは、ガリウムヒ素(GaAs)中で、スピンホール効果の電気的制御が可能であることを実証するとともに、その変換効率をこれまでに比べて最大40倍向上させることに成功したと発表した。
ケンブリッジ大学キャヴェンディッシュ研究所の岡本尚也氏を中心とする共同研究チームは2014年8月、ガリウムヒ素(GaAs)中で、スピンホール効果の電気的制御が可能であることを実証するとともに、その変換効率をこれまでに比べて最大40倍向上させることに成功したと発表した。
岡本氏らの共同研究チームは、GaAs中に生じる非線形伝導現象の1つである伝導帯のバレー(谷)間遷移現象に着目した。GaAsなどIII-V族半導体のエネルギーバンド構造は、伝導帯上に、「Γバレー」の他「Xバレー」と「Lバレー」がある。通常はエネルギー状態が最も低い「Γバレー」に電子が分布している。ところが、電場を印加すると「Lバレー」にも電子を分布させることが可能となる。
「Lバレー」に分布した電子は、より大きな有効質量を有することから、非線形伝導現象を生じさせ、同時に大きなスピン軌道相互作用が得られると期待されていた。ところが、これまでは「Lバレー」の電子が持つ特性は有効に活用されていなかったという。
共同研究チームは、スピン偏極した電子を電場印加によって「Lバレー」に遷移させ、スピンホール効果による信号を電気的に検出した。この結果、電場誘起のバレー間遷移に伴いスピンホール角が著しく増加したことを確認、その時に電流‐スピン流の変換効率は最大40倍に上昇することが分かった。
今回の研究では、スピンホール効果が伝導帯中のバレー間遷移現象を介して、電気的に制御可能なことを実証した。しかも、「複雑な資料構造や強い磁場を印加しなくても、デバイスを駆動させる電場のみで、スピンホール効果の制御を実現できたことが重要であり、スピントロニクスデバイスの実用化に大きく貢献できる」と共同研究チームではみている。
今回の共同研究には、岡本氏の他、ユニバーシティカレッジロンドンの紅林秀和講師、チェコアカデミーサイエンスのユングワース教授。テキサスA&M大学(現マインツ大学)のシノヴァ教授および東北大学の齊藤英治教授らが参加した。
なお、今回の研究成果は、現地時間2014年8月10日に英国科学誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 埋もれた強磁性層からスピン分解電子状態を検出、デバイスの特性向上に期待
物質・材料研究機構と東北大学の金属材料研究所および電気通信研究所の研究グループは、埋もれた強磁性層からスピン分解電子状態を検出することに成功した。共同で行った今回の研究成果は、スピントロニクスデバイスにおける特性の向上や新規材料設計への応用が期待されている。 - LSIに組み込める! 産総研などがスピントルク発振素子を高性能化
産業技術総合研究所などは、従来に比べ10倍程度のQ値を持つというスピントルク発振素子を開発したと発表した。この開発成果は、LSI中に組み込むことが可能なナノスケール発振器などに応用できるという。 - スピンを応用した“完全不揮発マイコン”を開発――消費電力は従来マイコンの1/80
東北大学とNECは2014年2月、スピントロニクス論理集積回路技術を応用した完全不揮発性マイクロコントローラ(マイコン)を開発したと発表した。無線センサー端末向けのマイコンで、動作実験の結果、消費電力は従来のマイコンの1/80だったことを確認したという。