高品質サウンドを実現する人工内耳、STなどが開発へ:音質を追求
STMicroelectronicsや、音声技術を手掛けるSoundchipらが、人工内耳の開発を進めている。同製品はSoundchipが策定した高品質サウンドの規格「HD-PA」に準拠するもので、既存の人工内耳よりも音を追求した製品になりそうだ。
STMicroelectronicsのチップとSoundchipのオーディオアルゴリズムを搭載したバイオニックイヤー(Bionic Ear:人工内耳)が、2015年第2四半期をメドに実現しそうだ。Austria Technologie & Systemtechnik(AT&S)の小型の耳穴型デバイスに組み込まれるという。
このデバイスは、Soundchipが策定したHigh-Definition Personal Audio(HD-PA)規格準拠のアルゴリズムをベースとしていて、周囲の雑音に邪魔されることなく、オーディオファン品質のサラウンド音響を楽しむことが可能だ。また、拡張現実(AR:Augmented Reality)アプリを利用すれば、イヤフォンを装着したままの状態で、Bluetooth対応携帯電話機やオーディオに切り替えたり、周囲の音以外を全て消して会話をすることもできるという。
SoundchipのCEO(最高経営責任者)であるMark Donaldson氏は、EE Timesの取材に応じ、「バイオニックイヤーは、最先端の音響技術と低消費電力の電子機器を、高度に統合された1つのシステム上に組み込み、それを耳穴型ヘッドセットに搭載することによって実現する。このため装着者に、雑音に邪魔されることなく高品位のオーディオコンテンツを提供することができる。また、拡張音響現実や音声ガイダンスなどの新しい機能も備えることにより、高い感度で快適な会話環境を提供できる他、優れたユーザー体験を実現する」と述べている。
耳穴型デバイスの実用化に当たり、HD-PA規格を採用したのは、業界の中でもAT&Sが初めてである。
Donaldson氏は、「バイオニックイヤーは、モジュール形式で提供する予定だ。モジュールの構成ブロックは、STMicroelectronicsのHD-PA規格準拠の半導体チップで、遅延のないオーディオエンジンを搭載する『STANC1』(モジュール当たり1つ)、HD-PA規格準拠のMEMSマイクロフォンを搭載する『MP34AB01H』(モジュール当たり2つ)、バランスドアーマチュア型レシーバ『SC001』である。また、電子部品と音響導波路を物理的に結合させる電子音響構造である、特許取得済みの『Soundstrate技術』を採用する他、モジュールの統合型電子音響のソフトウェア制御を行うための32ビットマイコン「STM32」、USBオーディオなども搭載する。さらに、こうした十分な機能に加え、動作検知に使うためのMEMSデバイスを少なくとも1つ搭載する予定だ」と述べている。
STMicroelectronicsとSoundchip、AT&Sの3社は、第1世代の試作機を予定通り発表できるよう、開発を進めている。また、既に第2世代機の開発にも着手しているという。
Donaldson氏は、「初代試作機については、寸法が10×7×6.5mm程度になる見込みだ。しかし第2世代機では、さらなる機能の統合と小型化の実現を目指して開発を進めている。ターゲットとなる顧客企業としては、われわれが“ソフトウェア対応のスマートなウェアラブルサウンド”と呼んでいる分野を拡大してくれるようなスマートデバイスメーカーや、既存のヘッドフォン/ヘッドセットを手掛けるメーカーなどを想定している」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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