バイオ回路がもたらす新治療、がん細胞を探して薬剤投与が可能に?:新技術(1/2 ページ)
米国MITの研究チームは、バイオ回路の開発に取り組んでいる。将来的には、体内でがん細胞を探し出し、薬剤を投与するバイオデバイスなどを実現できる可能性もある。
遺伝子工学では、細胞を取り出して、自然が本来意図するのとは違う機能を果たすよう遺伝子を変化させる。現在、電子回路を用いて細胞の構造を変える研究が進められている。こうした生物的回路/バイオ回路(biological circuit)は、新たな機能を果たすよう細胞を“配線”するという。例えば、パーキンソン病においてドーパミン神経細胞の代わりを担うといった具合だ。
がん細胞を探して治療
米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のDomitilla Del Vecchio助教授は、EE Timesに対し、「最終的な目標は、医療向けの複雑なシステムを実現することだ。例えば、がん細胞を探知するバイオ回路を血流に注入し、がん細胞を発見した場合は薬剤を投入するといったものが考えられる。そのようなバイオ回路にはセンサー、コンピュータ、薬剤を投与するための駆動部品が必要となるが、現在われわれが開発に取り組んでいるのはそうした種類の部品である」と述べた。
それ以外に想定している用途としては、糖尿病患者の血糖値を常時測定し、必要に応じて自動的にインスリンを放出するバイオ回路などが挙げられるという。
こうしたバイオ回路の設計プロセスは、電子回路を設計するのに比べて時間がかかる上に、多大な努力を要する。1つには、回路内の“通信”方法として、細胞が自然に行っている方法を用いる必要があることだ。特定の化学物質のみに活性化される受容体を持つ細胞を“入力”として使う、といった具合である。
2つ目の障壁は、数学的な要素だ。バイオ回路では、オームの法則のような単純なR/L/Cの方程式を使えない。代わりに微分方程式を利用する。Del Vecchio氏は「生物的回路は極めて非線形なので、微分方程式を用いて作る必要がある」と述べた。
だが、開発が成功した暁には、これらの苦労を補って余りあるものが得られるだろう。単純な薬剤には免疫を持っている病気が多いからだ。こうした病気には、(病原菌などに)活発に反応して対処する複合的な方法を利用する治療が必要である。MITの研究者たちによると、これを実現する最良の方法は、これまで数多くの研究者が試みてきたような、人工的な神経網を“配線”するのではなく、体内でそのような機能を果たす細胞を作り出すことだという。
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