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地球温暖化の根拠に迫る世界を「数字」で回してみよう(11) 環境問題(2/5 ページ)

今回は、二酸化炭素(CO2)がどのように地球を暖めるのか、そして、「2100年には、最悪で平均気温が4.8℃上昇する」という説に根拠があるのかを検証したいと思います。地球温暖化の仕組みは、太陽と地球をそれぞれ「ラジオ放送局」と「ラジオ受信機」と考えると分かりやすくなります。

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太陽放送局と地球ラジオ

後輩:「まず、江端さんが、最初に理解すべき概念は『黒体』です」
江端:「『黒体』? 黒い石のようなものか?」
後輩:「詳しい話は省略しますが、太陽の表面温度6000℃から放射させる電磁波スペクトルは、波長に応じたフラックス分布関数になり、その全領域を積分したものは太陽の表面温度の4乗に比例するのです。分かります?」(「大気化学入門」P.121)

江端:「分かるか!」
後輩:「しょうがないなぁ。じゃあ、取りあえず、太陽を『無数のラジオ放送局』、地球を『ラジオ』と考えてください」
江端:「無数のラジオ放送局とラジオ?」
後輩:「紫外線も赤外線も目に見える光も、つまるところ電波なのですよ」
江端:「『光を電波として考えてみる』ということだな」
後輩:「違います。光は電波そのもの*1)なのです。具体的には、東京のNHKラジオ第一の周波数594kHzの周波数を10億倍ほど上げたものは、緑色の光線になります(f=599584.916GHz,λ=500nm)」

*1)正確には「電磁波」である

江端:「電波が目に見えるんだ……」

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後輩:「かなり乱暴な説明になりますが……、太陽表面上には、無数の紫外線放送局、可視光線放送局、赤外線放送局があって、それぞれの放送局から、それぞれ違った周波数とパワーで電波が発信されていると思ってください」
江端:「なるほど、太陽には無数の放送局のアンテナが立っている、と」
後輩:「ところが、受信機である“地球というラジオ”は、太陽のラジオ放送局の全部の電波を全部受信するわけではないんですよ」
江端:「ふーん?」
後輩:「例えば、“地球ラジオ”は、紫外線放送局の放送は受信しません。紫外線は、すごく強くて危険なエネルギーなので、人類の視点で考えれば助かっています。ただ最近は、“地球ラジオ”も調子が悪くて、紫外線放送局の放送を受信してしまうことがあるのですが」

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江端:「フロンガスによるオゾンホール問題?」
後輩:「そうです。ずいぶん前から全世界で修復を試みて、最近、この穴(ホール)は、ようやく少しずつ小さくなってきているようですが、早いところ、完全にふさがないとヤバイです」
江端:「可視光線のところは、かなり景気よく受信できているみたいだなぁ」
後輩:「それに、水蒸気(H2O)に邪魔されてはいますが、赤外線放送局は結構受信できるのですよ。可視光線は、大気を突き抜けても、雲や雨、そして地表の氷にはね返されて、宇宙空間に戻されることもあります。なんやかんやで、地球が太陽から受け取るエネルギーの総量は、太陽から発せられるエネルギー全体の72%程度になります」
江端:「なんで、そんなことが分かるの?」
後輩:「そりゃ、人工衛星から地球の放射エネルギーをスペクトル解析して積分すれば……」
江端:「そーゆー話は、嫌いだ」
後輩:「では、簡単に言います。『地球は青かった』って宇宙飛行士が言っているじゃないですか?」
江端:「うん?」
後輩:「もし、地球が太陽のエネルギーを100%、完全に吸収する「黒体」だったら、宇宙飛行士は『地球は真っ黒だった』とか『地球、どこだ? 見えないぞ!』というコメントになっているはずです」
江端:「あ、確かに」

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後輩:「あの『青い美しい地球』は、結局のところ、『地球が受け取りを拒否した太陽のエネルギーの28%』というわけですよ」
江端:「『青い美しい地球』のイメージが台無しだな」
後輩:「ここで気をつけてもらいたいのが、太陽から直接地球に届けられるエネルギーは、原則*2)地球温暖化には影響しないことです」
江端:「へ? なんで?」
後輩:「太陽光線の波長(紫外線、可視光線、波長ナノメートル以下の赤外線)は、CO2では吸収できないのですよ」
江端:「じゃあ、なんでCO2の地球温暖化が問題になるわけ?」
後輩:「CO2地球温暖化は、太陽光線が地球にぶつかって、地球の大地を暖めた後からが、勝負になるのです」

*2)エアロゾルによる影響など(「大気化学入門」P.147−)

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