TSMCが元社員を告訴、サムスンに技術漏洩か:ビジネスニュース 企業動向(1/2 ページ)
TSMCは、28nmプロセス技術などに関する機密情報をSamsung Electronics(サムスン電子)に漏洩(えい)した疑いで、TSMCの元研究開発員を提訴するという。
世界最大手の半導体ファウンドリであるTSMCは現在、28nm世代を含むプロセス技術の秘密情報をSamsung Electronicsに漏えいした疑いで元研究開発員を提訴するという。Samsungは近年、ファウンドリ事業における競争力を高めている。
TSMCの元主任顧問のDick Thurston氏は、EE Timesに対して、「今回TSMCのチェアマンであるMorris Changと経営陣が提訴した目的の1つは、Samsungや競合他社に対して“28nmプロセス技術は、TSMCが(Samsungより)先に開発した技術だ”というメッセージを示すことだろう」と語った。
QualcommやAppleなどは現在、次世代モバイル機器向けに最先端の14nm FinFET技術を適用したチップを設計している。TSMCは、「Samsungが同技術でTSMCに追い付いたのは、技術漏えいがあったからではないか」と主張している。TSMCが2012年に28nm製品を投入してから約2年間は、28nmプロセスはTSMCの独壇場だった。Thurston氏は、「SamsungがTSMCより優位に立ったことがあるとしても、それはごくわずかな期間でしかない」と述べている。
アナリストらは、「TSMCが技術的なリーダーシップを取っていたことを考えると、SamsungがFinFETチップでTSMCに肩を並べたことは衝撃だったはずだ。両社は現在、2015年にFinFETチップの初の実用化に向けてしのぎを削っている」と述べている。
米国の投資会社であるSusquehanna International Group(SIG)でアナリストを務めるMehdi Hosseini氏は、EE Timesに対して、「Chang氏は2014年中頃に、“当社の市場シェアは、2015年は減少するが、2016年には回復する見通しだ”と述べている。このコメントは、SamsungがFinFETチップの試作品を投入するよりかなり前に発表されたもので、この時点ではTSMCはSamsungがこれほどの猛攻を仕掛けてくるとは予期していなかったのだろう」と述べている。
裁判の争点
これまで、2つの裁判でTSMCに有利な判決が下されている。Thurston氏によると、直近の判決は、TSMCが台湾の最高裁判所に上告したあと、2014年4月に台湾の知的財産裁判所によって下されたものだという。
裁判の争点は、TSMCのAdvanced Modules Technology部門の元研究開発シニアディレクタだったLiang Mong-song氏の行為だ。台湾のCommonwealth誌の記事によると、Liang氏はTSMCを去った後3年半の間、SamsungのSystem LSI部門でCTO(最高技術責任者)を務めていたという。
TSMCのCorporate Communications部門でディレクタを務めるElizabeth Sun氏は、台湾の最高裁判所で係争中であるということ以外はコメントを控えている。
Samsung側も、この裁判に関してはほとんど言及していない。
米国のPR会社であるEdelmanはEE Timesの取材に対し、「Samsungは、あらゆる法律や倫理基準の順守に努めている」というSamsungからのメッセージを伝えた。
Commonwealthの記事によると、TSMCはSamsungの財閥としての規模を考慮して、Samsungのことは訴えないと決断した可能性があるという。Samsungの時価総額は224兆6000億ウォン(2100億米ドル)で、TSMCの時価総額1190億米ドルの約2倍に相当する。Bloombergによると、約80社の企業で構成されるSamsungグループは、韓国軍用の装甲車両や武器の他、石油タンカー、家電製品に至るあらゆる製品を手掛けていて、韓国全体の経済活動の約20%を担っている。
Commonwealthの記事によると、Liang氏は、Samsung財閥が運営を手掛けるSungkyunkwan Universityで教授を務めていた当時、SamsungにTSMCの企業秘密を漏えいしたとされている。
Thurston氏は、「Samsungは、Liang氏が弁護士を雇ったり、複数の宣誓供述書を提出したりする際に、サポートを提供したとされている。このためSamsungに対しては、直接訴えを起こすわけではないが、今回の訴訟に関与しているものとみなしている」と述べる。
TSMCの28nmプロセス適用チップは、過去2年以上にわたって同社の利益をけん引してきた重要な製品であり、次世代の20nm/16nmプロセス技術の実現を目指す上で足掛かりとなる存在でもある。
Chang氏は2015年1月15日、アナリストとの電話会議において、「2015年の16nmプロセス適用チップ市場において当社が獲得できるシェアは、主要な競合企業と比べて少なくなる見込みだ。しかし2016年には、これらの競合企業よりもはるかに大きなシェアを獲得できるようになるとみている」と語った。同氏は以前にも、これと同じ内容の声明を発表している。
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