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ARMから見た7nm CMOS時代のCPU設計(8)〜消費電力の制約が決めるCPUの「個性」:福田昭のデバイス通信(19)(2/2 ページ)
今回は、携帯機器などの用途に求められる消費電力の点から、CPUの性能を見てみよう。まず覚えておきたいのは、ゲート長ごとに性能と消費電力のトレードオフが存在するということだ。
高いしきい電圧と低いしきい電圧を組み合わせる
性能(動作周波数)とリーク電力(待機時消費電力)を大きく左右するパラメータの1つが、トランジスタのしきい電圧(VT)である。電源電圧一定の条件下では、しきい電圧(VT)が高いとリーク電力は低くなる。ただし、動作周波数の上限が下がる。逆にしきい電圧(VT)が低いと動作周波数が高くなる。ただし、リーク電力が増加する。
この問題を緩和する方法の1つは、しきい電圧の高いトランジスタとしきい電圧の低いトランジスタを組み合わせることだ。高い動作周波数を要求する部分にはしきい電圧の低いトランジスタを、低いリーク電力を要求する部分にはしきい電圧の高いトランジスタを採用する。この結果、リーク電流を適度な大きさに抑えつつ、所望の動作周波数を達成できる。
しきい電圧の違いによる動作周波数とリーク電力の変化。高いしきい電圧(RVT)のトランジスタと低いしきい電圧(LVT)のトランジスタを組み合わせることで、高い動作周波数と低いリーク電力を両立させやすくなる。GPUコア「Mali-T658」の例(クリックで拡大) 出典:ARM
こういった最適な仕様を追求した結果、シリコン面積の効率と消費電力の効率は用途ごとに、かなり違ったものになる。ARMの講演では、据え置き型機器(セットトップボックスとデジタルテレビ)、タブレット、携帯電話端末(3品種)、車載機器で効率を比較したスライドを示していた。据え置き型機器はシリコン面積当たりの性能は最も高いものの、消費電力の効率は最も低い(消費電力が大きい)。一方、携帯電話端末(3品種中の2品種)は、シリコン面積当たりの性能は最も低いものの、消費電力の効率は最も高い(消費電力が小さい)。
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