「iPhone」に見る新たな価値の作り方〜企業が追求すべき「意味的価値」とは?:勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ(4)(2/4 ページ)
顧客に支持される製品を作るためには、製品の機能や性能だけに依存しない“本当の価値”を創出することが重要だ。これが「意味的価値」というものである。今回は「iPhone」を例に取り、iPhoneがいかに新たな価値を生み出したかを見てみよう。その上で、メーカーが追求すべく「意味的価値」について解説したい。
3Dテレビは今どこに? 持続的な差別化は難しい
4Kテレビが登場する少し前に、一時期、「3Dテレビ」があったことは覚えているだろうか? 2011年にアナログ放送が停波する前年、テレビの買い替えがさかんに促されていた2010年ごろが、3Dテレビの全盛時代であったと思われる。3D対応のメガネが必要(一部不要な機種もあったが)な上に、ソフトコンテンツの供給不足もあり、家庭に十分普及するにはいたらなかった。2020年の東京オリンピックも控え、テレビの流れはより高精細・高解像度へと進み、4Kからさらに8Kに移行していくことは容易に予測できる。
外部要因の影響があったものの、3Dテレビは、各社、機能による差別化に目を向けて開発したが、差別化要因は「3D」という点だけで、長期間持続的に差別化を追求するにはいたらなかった。したがって、顧客価値そのものも持続したとは言い難い。
機能的価値と意味的価値
これまで何度か「価値」という言葉が登場したが、ここで製品の価値について2つに分けてみよう。
客観的に価値基準が定まった機能的な評価によって決まる価値、商品がもつ機能によって決まる価値のことを「機能的価値」という。
一方、顧客が商品に対して主観的に意味づけることによってうまれる価値、商品と顧客が影響しあって共創する価値のことを「意味的価値」という。別の言い方をすれば、意味的価値というのは、機能的価値によって決まる価格水準に対して、実際の価格との差異である。
もう少し分かりやすく言えば、以下の通りである。
(1)顧客は客観的基準が決まった機能的価値に対して対価を払う
(2)商品がもつ機能の価値よりも、顧客が高い価値を支払う。すなわち、価値そのものが一様ではなく、価値が変わるということ
これらを図示すると、図1の通りとなる。
「機能的価値」は人によりさほど変わるものではないが、「意味的価値」は個人によりさまざまである。“主観的な意味づけ”は顧客が付ける価値なので、顧客ごとに違って当たり前なのである。この両方(機能的、意味的)の価値を加算したものが、「商品価値」である。
先の3Dテレビでは、機能的価値はだいぶ高められていたものの、機能による差別化を長期間にわたって持続することは困難である。第1回で述べたコモディティ(価格以外に差別化要因がない状態)にもなりやすい。
その一方で、VIZIOの4Kテレビ、AppleのiPhoneは画期的な機能、他社を圧倒するような性能を持っているわけではないが売れている。前者は北米でシェア2位(2013年)を獲得しているし、iPhoneについてはもはや説明の必要はないだろう。これらの製品に意味的価値を見出すことができる。一時期、「日本の電機メーカーはなぜ、Appleのような製品を世に出せないのか?」といったテーマがビジネス誌等に取り上げられることがあったが、これはモノづくりの思想やプロセスによる違いではなく、「意味的価値を製品に上手に仕込めたからなし得た」のである。
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