筋電センサーをウェアにプリント可能、導電機能を持つインクを開発:先端技術 伸縮性導体
東京大学 大学院工学系研究科の教授を務める染谷隆夫氏らは、導電性インクを開発するとともに、プリント技術を用いて伸縮性導体を作製した。この技術を応用すれば、テキスタイル型筋電センサーを印刷プロセスでスポーツウェアに作り込むことができる。
東京大学 大学院工学系研究科の教授を務める染谷隆夫氏らは2015年6月、導電性インクを開発するとともに、プリント技術を用いて伸縮性導体を作製したと発表した。この技術を応用すれば、テキスタイル型筋電センサーを印刷プロセスでスポーツウェアに作り込むことができる。このウェアを着ているだけで生体情報を計測することが可能となる。
染谷氏らの研究グループは、導電機能を持つ新型のインクを開発した。このインクを用いると、布地に伸縮性と導電性に優れた配線や電極、ビアをプリント技術で形成できるのが特長である。
今回の技術の基本となる導電性インクは、伸張性に優れるフッ素系ゴム材料を溶剤に溶かし、導電性粒子である銀フレークと界面活性剤を混ぜて作った。界面活性剤を混合することで、伸張率215%かつ導電性182S/cmを達成するなど、高い導電率と伸張性を両立することができた。この数値は、元の長さの150%以上伸張可能なプリントできる導電性物質の中で、「世界最高レベル」と主張する。また、詳細な分析の結果、界面活性剤の効果により、導電性の銀フレークがフッ素系ゴム材料の表面に高密度に並ぶことで、特性が改善していることも分かった。
さらに研究グループは、この導電性インクを用いて、繊維素材上に伸縮性のある配線や電極をプリントし、テキスタイル型筋電センサーを作り込んだ。試作した筋電センサーは、実効的な計測範囲が40×40mmで、合計9個(3×3)の電極を20mm間隔で配列している。これらの電極及び配線は、開発したインクを1回プリントして乾燥させるだけで形成することができるという。布地の裏面にも同インクを使って印刷すれば、表裏2層の配線パターンが形成できる。さらに、布地に表裏を貫通する小さな穴を設けることで、貫通ビア配線を形成することが可能である。これらの配線を増幅用の有機トランジスタと結合しておけば、電極から得られた約1mVの微弱な筋電信号を約18倍に増幅して出力することが可能である。
今回の研究成果は、伸縮性に優れたテキスタイル型の生体情報センサーを、比較的簡単なプロセスで作成することができることから、スポーツやヘルスケア、医療などへの応用が期待される。なお、研究成果は、英国時間2015年6月25日に、英国科学誌「Nature Communications」で公開された。
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