ダイエットへの欲望は“種存続の危機”に勝るのか:世界を「数字」で回してみよう(18)(6/8 ページ)
痩せすぎは出産リスクを高める可能性があると考えると、ダイエットとは、「種の存続を危機にさらす可能性のあるもの」以外の何物でもない気がします。それなのに、なぜ、現代人は「痩身=美しい」と認識するのか。今回は、読者の皆さまからいただいた10の仮説を検証したいと思います。
「出産適齢期偽装」論
江端:「と、まあ、こんなで感じで、予定していた仮説が大コケして困っているんだ。助けてくれないかな?」
後輩:「……江端さんは、『若い女性は出産に有利である』というデータを持っていますよね?」
江端:「持っているよ。データをグラフに表わした時、腰が抜けるほどびっくりしたけど(参考)」
青色の棒グラフは、母の年齢別の出産数の比率を示しています。これに対して、赤色の折線グラフは、不妊治療[生殖補助技術(Assisted Reproductive Technology:ART)]を行ったカップルの妊娠の成功率を示しています(参考)。
「不妊治療をする」ということは「100%出産する意思がある」ということであり、その場合であっても、妊娠成功率は、20代→30代→40代→50代の順番で、おおまかに3→2→1→0という比率で減少しているのです。
後輩:「だったら『痩身が美しいと認識されてしまう理由』は明快じゃないですか。『元気に見せるため』ですよ」
江端:「えっと……よく分からないんだけど」
後輩:「今回、半年で10kg以上のダイエットを達成した江端さんなら分かると思いますが、痩せると日常での動きが機敏になったでしょう?」
江端:「確かに。体が軽くなって、日常の動作がとてもラクになったように思う」
後輩:「つまり、痩身であることは、活動的になれるということなんですよ。活動的であるということは、元気に見えるということなんですよ。元気に見えるということは、『健康体に見える』でということなんですよ」
江端:「一気に畳み込むな! 訳が分からん!」
後輩:「例えば、アイドルたちが、舞台の上で、歌いながら飛んだり跳ねたりするを見て、『病弱だな』と思う人はいないでしょう」
江端:「そりゃそうだ」
後輩:「『健康体に見える』ことは、元気な子どもをたくさん産める可能性をアピールすることにもなっていますよね」
江端:「……あ!」
それは、盲点だった。
後輩:「つまり、(1)ダイエットは元気な健康体を示す有効な手段で、(2)元気な健康体のアピールは、元気な子どもをたくさん産める可能性のアピールにもなっているのですよ」
江端:「確かに……それは、遺伝子の『種の保存戦略』と合致する」
後輩:「ところで、江端さん。実際のところ、女性の出産の最適年齢はいくつですか?」
江端:「生物としては、初潮後できるだけ早い時期であって、体の成長が一段落する年齢だから、14〜15歳といったところかな」
後輩:「なるほど。つまりAKBのメンバは、3〜4歳ほどサバを読むために、舞台の上で、歌いながら飛んだり跳ねたりしているわけですよ。本人たちは意識していないでしょうが」
江端:「し、しかし、それはAKBのようなアイドルグループだけに適用される仮説であって……」
と言うと、後輩はキョトンとした顔をして言いました。
後輩:「何言っているんですか、江端さん。女性の『化粧』や『装飾』は、14〜15歳に、少しでも近づいて見せるための偽装戦略ですよ」(【仮説10】「出産適齢年齢『偽装』」論)
江端:「え?そうなの?」
後輩:「もちろん、本人たちは意識していないでしょうが」
江端:「つまり、ダイエットだけでなく、化粧も衣服も装飾も、全てが遺伝子の『種の保存戦略』のために、仕組まれているということか」
後輩:「そういうことです」
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