反撃の“虎の巻”――銀行を味方につける:実録! ネット詐欺(中編)(3/5 ページ)
自分がインターネット利用詐欺に遭ったことを悟った私は、何とか正気を取り戻し、犯人に対して報復の刃を研ぎ始めました。ネット詐欺犯に対して今、自分ができる最大限の反撃に出たのです。
ネット詐欺犯に対する銀行のネットワーク
この段階で、いつもの出社時間を40分も過ぎておりました。
その日は1時間程の遅着を会社にメールで連絡して(「私用で」と書いて)、さらに嫁さんの実家にいる家族全員にメールを送りました。
詐欺師は詐欺師同士のネットワークを持っていて、詐欺の被害者の情報を共有して、第2、第3の詐欺を仕掛けるという話を聞いていたからです。そのため、恥ずかしかったのですが、家族には、早々に連絡しておきました。
先日話していた中古パソコンの購入の件は、ネット詐欺でした。
7680円やられました。現在、色々対応中です(詳細は帰宅後にお話します)。
現時点で、金銭以外では被害ありませんが、我が家の住所や電話番号の情報が、詐欺グループに流出しました。
これから、我が家を狙う別の詐欺が発生する可能性があります。
不審な郵便物、電話などがあったら、迷わず私に知らせてください。
パパ
その後、私は、詐欺サイトと取り交したメールを印刷したものを持ち歩いて(前回の記事参照)、通勤経路途中にある交番に毎日立ち寄っていたのですが ―― 私が帰宅する時間になると、きまってお巡りさんが『巡回中』で、「被害届け」を出せない日が続きました。
しかし、一般的に「被害届け」というのは、スピード勝負です。
被疑者の証拠隠滅の時間を与えずに、証拠物品の押収、身柄の拘束など、時間がたてばたつほどに状況は悪くなるからです(時効もあります)。
ただ、今回の場合、「加害者の住所も氏名も分からない状況で、被害届けが受理されるのか?」ということもずっと気になっていて、後手に回っていました。
そんな風にして、数日が過ぎたころ、再び銀行から電話がかかってきました。
行員:「この度は大変ご迷惑をおかけ致しました。江端様の入金記録から、今回の振込詐欺の被害者であることが認定されました」
江端:「はあ」
行員:「口座凍結によって、差し押さえした金額は7万140円になりました」
私が口座凍結の第一関係者ではないものの、たとえ7万140円程度の金額であったとしても、ヤツらの手に渡らずに済んだということは、胸のすく思いでした。
その口座をつぶしたことで、ヤツらの仕事(詐欺)はやりにくくなっているはずです。
口座が凍結されたことを知らずに、のこのことお金を引き出しにくれば、そこで、行員から「ちょっとこちらへ……」と別室に連れ込まれて、警察に引き渡されるリスクがあります。
また、今の日本では、警察からの指導で、新しい口座(特に法人口座)を作るのが大変難しくなっています。
さらに、今回使われた口座の名義人「カン シュウシン」なる人間が、今後、日本で口座を作ることは、どの金融機関においても絶望的に難しくなっているはずです。
全国銀行協会という銀行団体のルールで、犯罪に使われた口座の名義の名称(「カン シュウシン」)が、全ての銀行にバラまかれるためです(参考)。
もっとも、偽造パスポート、偽造自動車免許証などを作って、架空の人物の名前になりすまして、新しい口座を作ることはできるかもしれませんが、作成には結構な金額がかかる(参考:ただし、これも詐欺サイトくさい)上に、偽造IDの作成や使用は重罪です*)。
*)銀行がパスポートや免許のIDの番号をチェックして本人確認を行なったら、たちまち本人が特定され、公文書偽造罪/有印公文書偽造罪(刑法第155条1項、2項)で、刑事罰(懲役刑)の対象となります。
――たった1本の銀行への電話で、ヤツらにこれだけの「嫌がらせ」ができる
1円も金が戻ってこなくても、ささやかであっても、被害者だからこそできる報復はあるのだ。
クックック……フゥハァーハッハッハッハ!! ざまあみやがれい! と、心の中でドス黒い陰鬱な哄笑(こうしょう)を上げて、ドヤ顔をしていた私でした。
―― が、程なく、携帯電話の向こう側の、行員の声に気がつきました。
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