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印刷技術で、有機強誘電体メモリの3V動作を確認プリンテッドエレクトロニクスの低電力化を加速(1/2 ページ)

産業技術総合研究所の野田祐樹氏らは、低電圧でも動作する有機強誘電体メモリの印刷製造技術を開発した。この技術を用いて作成した薄膜素子は、電圧3Vでメモリ動作することを確認した。

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実用レベルの低消費電力デバイスを印刷で

 産業技術総合研究所(以下、産総研)フレキシブルエレクトロニクス研究センター フレキシブル材料基盤チームの特別研究員を務める野田祐樹氏らは2015年10月、低電圧でも動作する有機強誘電体メモリの印刷製造技術を開発したことを発表した。この技術を用いて作成した薄膜素子は、電圧3Vでメモリ動作することを確認した。実用レベルの低消費電力デバイスを、印刷技術で製造することを可能とする技術の1つである。

 今回の研究は野田氏の他、フレキシブルエレクトロニクス研究センター フレキシブル材料基盤チームのチーム長を務める堀内佐智雄氏、同センターの総括研究主幹を務める長谷川達生氏らの産総研研究チームと、理化学研究所 創発物性科学研究センター 動的創発物性研究ユニットのユニットリーダーを務める賀川史敬氏、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 構造物性研究センターの熊井玲児教授、及び科学技術振興機構との共同で行った。

 産総研は、印刷方法が適用できる低分子系有機強誘電体の開発をこれまでも行ってきた。2005年には、2種類の有機分子を組み合わせた分子化合物からなる強誘電体を発見している。2010年には、単一成分の有機材料でも室温で最高の強誘電性を示す材料を開発した。今回はこれらの研究成果を踏まえ、溶液をパターニング塗布して製膜する印刷方法により、低分子系有機強誘電体を用いた薄膜メモリ素子を、常温・常圧下で製造する技術を開発した。

2-メチルベンゾイミダゾール(MBI)

 今回の研究では、有機強誘電体に水素結合型有機強誘電体の一種である「2-メチルベンゾイミダゾール(MBI)」を採用した。MBIは有機溶剤への溶解性と室温での強誘電性に優れており、極めて小さい抗電場(数十kV/cm)で分極反転するという特性を持つ。また、単結晶内では、2つの直交した方向に自発分極Pが現れる。膜の上下方向に電圧を印加する素子では、自発分極が膜厚に対して垂直な方向の成分を持つことが必要となるが、MBIはこのような分極方向をもつ板状結晶に成長しやすいという特長がある。

 薄膜作製ではまず、1×1cmの酸化膜付シリコン基板表面上に、100μm幅の親水領域と、100μm幅の撥水領域を交互に配置した縞状の親撥パターンを作製する。その上に平坦な板(ブレード)を使って、MBIを溶解させた溶液を掃引して塗布する。この溶液を乾燥させると、親水領域上にのみMBI薄膜が選択的に形成される。作成した薄膜を偏光顕微鏡で観察したところ、特定方向の偏光に対して薄膜全体が消光した。このことから、形成された薄膜は分子の配列方向がそろった単結晶薄膜であると推測することができる。


(a)は2‐メチルベンゾイミダゾールの分子構造、(b)は単結晶薄膜作製プロセスの概念図、(c)はMBI単結晶薄膜の偏光顕微鏡写真。試料を回転(偏光板の回転)することで明暗が変化している。十字矢印は偏光板の方向を示す。スケールバーは400μmである (クリックで拡大) 出典:産業技術総合研究所

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