新生NXP、誕生の瞬間に密着:旧Freescale本社に潜入(1/3 ページ)
年間売上高が100億米ドルを超える巨大企業、新生NXPが誕生して1週間がたった。筆者は、合併完了日に、元Freescale Semiconductorの本社があった米国テキサス州オースチンに飛び、初日の様子を見て回った。
M&Aの波
2015年の世界半導体業界は、合併買収の波に襲われた。BroadcomとAvago Technologies、AlteraとIntel、Freescale Semiconductor(以下、Freescale)とNXP Semiconductors(以下、NXP)、AtmelとDialog Semiconductor、Fairchild Semiconductor InternationalとON Semiconductorなどでは、そこで働く従業員たちにも大きな影響が及んだ。ここで目を背けてはならないのが、従業員たちが「自分は職を失うのではないか」という最悪の事態を想定するのも無理はないという点だ。
従業員たちは、直ちに解雇通知を受け取ったわけではなくても、自分の仕事や携わっていたプロジェクトが危機的状況に置かれていると考えるだろう。新しい組織図もまだ見たことがなく、自分が所属する事業部門の指揮を誰が執るのかも分からないのだから。
買収した側の企業で働くということがどういうことなのか、全く想像がつかないのではないだろうか。新しい上司とは、会ったことも話したこともないのだ。
やがて同僚たちは、合併後の新会社においてできるだけ正当に評価されるべく、地位の獲得をめぐって競争を繰り広げ始める。
もしエンジニアであれば、ヘッドハンターからの電話を受けるようになると、光栄に思うのではないだろうか。しかしやがて、ヘッドハンターが皆、同じ企業との契約に基づいて候補者を探しているということや、1つの仕事を、数多くの候補者たちに何度も繰り返し打診しているということに気付くだろう。
だが、そこでただ取り乱しているわけにはいかない。何も分からない状態が続けば続くほど、いら立ちが募り、自分の人生そのものが混乱に陥りかねない。
新生NXP「初日」
FreescaleとNXPが合併初日を迎えた2015年12月7日、EE Timesは、新生NXPが拠点を置く、旧Freescale Semiconductorのオースチン(Austin)本社を訪れた。今回の訪問の目的は、この2つの巨大企業の統合プロセスについて理解することだ。合併後の新企業の内部の状況を調査することにより、内部関係者が混沌(こんとん)とした状況をどのように見ているのか、また、渦中の従業員たちがそこから何を学んだのかを知りたいと考えた。
不確実な状況が長引くほど、移行関連の作業は難しくなっていく。FreescaleとNXPの場合は、2015年3月に合併を発表してから、同年11月にようやく最後の規制上の障壁を乗り越えることができるまで、不透明な状態が約9カ月間続いた。
NXPのコーポレートマーケティング担当ディレクタを務めるJohn Dixon氏は、「今回の合併により、Freescaleの従業員約1万7000人と、NXPの従業員約2万5000人に影響が及んだ」と述べている。これは、小規模の都市の人口に匹敵する人数だ。
Dixon氏は、「不透明な状態が続くと不安が生まれる原因となる。このため企業全体において、透明性の高い明確な方法でマイルストーンを設定し、現状を伝達することが欠かせないと考えた」と述べる。
FreescaleとNXPの経営陣の対応は、驚くほど迅速だった。
合併が発表されて1カ月もたたないうちに、両社は(合併後の)5つの注力分野を内部で決めた。「セキュリティ/コネクティビティ」「車載」「RF」「デジタルネットワーキング」「汎用品」だ。Dixon氏は、「われわれは、合併における膨大で複雑なプロセスを、管理しやすいレベルに細分化した」と述べる。だが両社の幹部は、合併が完了するまでの9カ月間、製品ロードマップについて話し合うことや、今後の業績の見通しを共有することは、禁止されたという。米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission)が、合併する企業間におけるこうしたやり取りを禁じているからだ。そのため、外部のコンサルタント(マッキンゼー・アンド・カンパニー)が雇われた。
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