iPhoneのセキュリティ問題は“パンドラの箱”:攻防が続くApple vs FBI(1/2 ページ)
「iPhone」のセキュリティ解除問題について、AppleとFBIの攻防が続いている。Appleは、もし一度解除を許せば、それは“特定の1台”だけにとどまらない危険性があると主張する。さらに、セキュリティ解除用のソフトウェアを開発すれば、犯罪者や敵国政府などの手に渡ってしまう恐れがあり、「悪意を秘めた“パンドラの箱”を開けることになる」との見解を示した。
5時間に及ぶ公聴会
AppleとFBI(米連邦捜査局)が、国家セキュリティとスマートフォンのプライバシーとをめぐって対立する中、米国下院司法委員会において2016年3月1日(現地時間)、5時間に及ぶ公聴会が開かれた。しかしそれでも、“暗号化”をめぐる綱渡りの状態が終わることはなかった。今回、解決策は明示されなかったものの、「滑りやすい坂論」と解釈される可能性のあるセキュリティ技術へのアクセス問題については、世論がAppleを支持する方向へと動いたようだ。
米国の市場調査会社であるEnvisioneering Groupでリサーチディレクターを務めるRichard Doherty氏は、「今回、公聴会に集まった多くの人々にとっては、これまでの考えが変わったのではないだろうか。全てを解決するには至っていないが、技術的な議論のレベルとその重要性が確実に高まったといえる」と述べている。
2016年3月1日の公聴会は、FBIが、米国カリフォルニア州サンバーナーディーノ(San Bernardino)で2015年12月2日に発生した銃乱射事件の捜査のためとして、犯人が所有していた「iPhone 5s」のセキュリティ機能を解除するためのソフトウェアを作成するよう、Appleに裁判所命令を下した件について行われた。この事件では、14人が死亡し、22人が負傷している。FBIはこれまで、今回のセキュリティ解除要請は、特定の1台のスマートフォンだけに適用されるものであるとし、Appleの非協力的な態度を非難してきた。これに対しAppleは、「このようなソフトウェアを作成すれば、技術が悪意ある手に渡る恐れが生じ、米国憲法修正第1条/第5条を侵害することになる」と主張している。
FBI長官であるJames B. Comey氏は、「FBIがソフトウェアツールを使うことができれば、われわれの捜査を妨害しようとする凶暴な番犬であるかのようなAppleのセキュリティ機能のロックを解除することが可能になる。プライバシーを究極的な価値あるものとする主張は、人々を引き付けるだろう。しかし、安全性が切望される社会において、それはあり得ない。プライバシーとセキュリティの両方を手に入れるための方法を考えなければならないのだ」と主張する。
FBIの要請内容
FBIは、問題とされているスマートフォンに対し、以下を実行可能なソフトウェアの作成を要請しているという。
- ログイン試行が10回以上失敗するとデータが削除される機能を廃止する
- ログイン試行が連続して失敗した場合に、次のログイン試行までの時間遅延を廃止する
- タッチスクリーンを制御するコードを書き換えることで、FBIが数字を入力しなくてもスマートフォンを調査できるようにする
FBIは今回、Appleのセキュリティシステムに関する知識が不十分だとして、非難を浴びることになった。またComey氏は、FBIが、Appleにソースコードを確認していないことや、銃撃犯が所有していたスマートフォンを複製してログインタイミングのメカニズムを無視しようとしたことなども認めている。
Appleは、裁判の無効申し立ての中で、「FBIは、Appleに助言を求めたり、iOSに関する一般向けガイダンスを確認したりすることなく、銃撃犯のアカウントの1つに関連付けられていた『iCloud』のパスワードを変更してしまった。このため、そのスマートフォンがiCloud上で自動的にデータのバックアップを開始するのを妨害する結果となった。広く使われている無線LANネットワーク上にデータがバックアップされていれば、そのスマートフォンを解除する必要はなかった」と述べている。さらに、「もし最初にFBIが当社に相談を持ちかけてさえいれば、今回の訴訟は不要だったはずだ」と指摘した。
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