交換相互作用の初歩の初歩:福田昭のストレージ通信(26) 次世代メモリ、STT-MRAMの基礎(4)(2/2 ページ)
磁気メモリにおけるデータ書き換えの基本原理を理解するためにも、「強磁性体の交換相互作用」を初歩の初歩から説明する。
外部磁界による磁気メモリのデータ書き換え原理
それからコイルの電流をオフにする。強磁性体の磁化は、反転したまま(左下方向のまま)で残る。一連の動作は、外部磁界を利用して、磁気情報を書き換えたことに相当する。これは、磁気メモリにおけるデータ書き換えの基本原理でもある。
外部磁界による磁気記録の歴史
外部磁界を利用して磁性体の情報(磁化)を書き換える磁気記録装置には、長い歴史がある。最も古いものは、デンマークのV. ポールセンが1898年に発明した磁気録音機「テレグラフォン(Telegraphon)」だろう。ドラムに鋼線を巻いたものを磁気記録媒体としており、電磁石による磁気ヘッド(鋼線を挟み込む方式)が鋼線を磁化する。
プラスチックの磁気テープに信号を記録する技術は、ドイツのF. フロメイルが1928年に開発した。世界で初めてのテープレコーダーである。また1933年には、ドイツのE. シュラーがリング形の磁気ヘッドを考案した。プラスチックの磁気テープとリング形磁気ヘッドの組み合わせによる磁気テープレコーダーは第二次世界大戦の前後に、国家元首や軍幹部など重要人物の演説の記録装置として大活躍した。
1953年には、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)が磁気コアメモリを開発した。磁気コアメモリでは、直径が数ミリ以下と小さなフェライト(強磁性体)のコア(リング)の中央に極細の電線を通し、電流の方向によってコアの磁化の方向を変える(右回り、あるいは、左回り)ことで情報を記録した。磁気コアメモリは1950年代後半から1960年代には、電子計算機の主記憶装置として普及した。
そして1956年に、世界で初めてのハードディスク装置(HDD)をIBMが開発する。今から60年前のことである。
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