「日本発」のプリンテッドエレで世界を狙うAgIC:インクジェット印刷によるヒーターの販売開始(1/3 ページ)
インクジェット印刷による電子回路開発を行う東大発ベンチャーAgICは、面ヒーター「PRI-THERMO」(プリサーモ)の一般販売を開始した。2016年2月には、接着剤メーカーのセメダインからの資金調達を発表するなど活発な動きを見せる同社。しかし、2014年1月に会社を設立した当初の計画とは違う流れとなっている。同社社長の清水信哉氏にインタビューを行った。
インクジェット印刷による電子回路開発を行うベンチャーAgICは2016年5月13日、面ヒーター「PRI-THERMO」(プリサーモ)の一般販売を開始した。工場やプリンタで使用するヒーターに加え、弁当箱や電池の保温、結露防止などの用途が考えられる。その特長は、インクジェット印刷で得られるフレキシブルさにある。フィルム上のため、厚さは225μmと薄く、軽い。曲げることもできるので、丸めて持ち運ぶのも容易だ。
幅最大600mm/長さ最大2mと大型のヒーターも出力できる。最大出力電力は2kWとなっている。最大の特長は、自動生成アルゴリズムによって、注文したサイズ/ワット数/抵抗値などに応じて、自動的にパターンを形成し印刷してくれることだ。つまり、設計や型製作、エッチングといった既存の工程が必要ない。
同社社長の清水信哉氏によると、「独自のインクジェット印刷設備を用いており、1枚からオンデマンドで製造できるとともに、同じ製法でそのまま量産にも対応可能」という。これにより、納期までの期間を短く、低費用での製造を実現している。
試作品(600×600mmまで)の基本料金は2万円(税別)としており、納期は4営業日以内の出荷とする。使用温度範囲は−20〜100℃。最大電流は10A、入力電圧は最大200V、抵抗値精度は±10%となっている。
当初の有望市場は教育現場だった
AgICは、2013年9月に東京大学川原圭博准教授らが論文発表したインクジェットプリンタによる回路印刷技術の事業化を目指して2014年1月に設立された企業だ。銀のナノ粒子を用いた導電性インクが同技術の核となっている。
EE Times Japanが2014年6月に行ったインタビュー(市販プリンタで回路を印刷! 銀ナノ粒子を使った導電性インク)当時は、カーボンなどの導電性インクに比べると10倍以上抵抗値は低いが、銀の経時劣化が避けられないことから寿命が半年〜1年だった。そのため、使い捨ての使用を想定しており、当初の有望市場としては教育現場を挙げていた。
しかし、清水氏は「教育現場への展開は現在も行っているが、ヒーターをはじめB2Bに舵を切り始めている。その理由は、1)思っていた以上に技術の向上が早く進んだこと、2)プリンテッドエレクトロニクス市場が注目を集めていること」と語る。
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