「シリコンは水晶に必ず勝てる」――SiTime:MEMS発振器メーカーの“生き残り”(1/3 ページ)
かつては水晶の独壇場だった発振器市場において、MEMSの存在感が高まっている。温度補償機能を備えていない最もシンプルなタイプの発振器では、MEMSの出荷数が既に水晶を上回っている。そのMEMS発振器市場でシェア90%を獲得しているのがSiTimeだ。
MEMS発振器市場でシェア90%
メガチップス傘下のSiTime(サイタイム)は、MEMS発振器を手掛ける数少ないメーカーだ。
かつては、MEMS発振器の開発や研究を手掛けるメーカーは複数存在した。例えばSilicon Laboratories、Discera(ディセラ:Microchip Technologyが2013年に買収)、IDT、新興企業だったSand 9、そしてAvago Technologiesも内部で研究開発を行っていた。
SiTimeのマーケティング担当Executive Vice PresidentであるPiyush Sevalia氏は、「だが現在は、SiTimeとディセラのみといってよい」と語る。「Silicon LaboratoriesとIDTはMEMS発振器市場から撤退した。Avagoも研究開発をやめていると思われる。Sand 9はAnalog Devicesに(2015年に)買収されていて、実際の製品は市場に投入されていない」(同氏)。事実上、MEMS発振器を手掛けているのはSiTimeとディセラの2社であり、しかも同市場のシェアはSiTimeが90%、ディセラが10%だという。SiTimeは圧倒的な優位を誇っているのだ。
Sevalia氏は、他のメーカーが撤退した理由について、「MEMS発振器は、単純に設計が難しいからだ」と説明する。「だがわれわれは、他社と違いMEMS発振器のみに焦点を当て、全てのリソースを注いだことで設計上の課題を克服し、製品化を実現した。競合に比べると、SiTimeは3〜3.5年、技術面で先行している」(同氏)。
Sevalia氏は、水晶発振器に対するMEMS発振器の主な利点について、高性能、小型、低消費電力の3つを挙げる。
SiTimeは、もともとはRobert Bosch(ロバート・ボッシュ)からスピンアウトした企業だ。Robert Boschから受け継いだMEMS振動子の製造技術をより向上することで、周波数安定性や信頼性を高めてきた。また、MEMS発振器は、振動子とアナログCMOS回路を、CSP(Chip Size Package)などのプラスチックパッケージに搭載できるので、外付けのコンデンサーや高価なセラミックパッケージが必要な水晶に比べ、小型化と低コスト化が図れる。
MEMS発振器はキャズムを越えている
2015年、SiTimeはキロヘルツ発振器の販売数量を、2014年の6000万個から1億1000万個に伸ばした。けん引役となったのは、外形寸法がわずか1.5×0.8mmと超小型で、消費電力が既存の水晶発振器の約2分の1という32kHz発振器「SiT153xシリーズ」だ。これがウェアラブル分野でヒットした。Sevalia氏によると、ウェアラブル機器の大手メーカー5社のうち4社が、SiTimeのキロヘルツ発振器を採用しているという。
温度補償/温度制御をしていないSPXO(シンプルパッケージ水晶発振器)の2015年における出荷数量(※SiTimeの製品は水晶を使っていないMEMS発振器だが、温度補償/温度制御をしていない発振器という意味でSPXOのカテゴリーとしてカウントしている)。SiTimeはトップに立った(クリックで拡大) 出典:SiTime
Sevalia氏は、「水晶発振器は60年の歴史を持っている。一方でMEMS発振器はまだ10年足らずだが、発振器市場では“キャズム*)”を越えた位置にいると確信している」と述べる。
*)キャズム=深い溝。マーケティング理論で使われる用語で、ハイテク業界において新製品・新技術を市場に浸透させていく際に見られる、初期市場からメインストリーム市場への移行を阻害する深い溝のこと(出典:ITmedia エンタープライズ 情報システム用語辞典:キャズム(きゃずむ))
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