磁場や電流印加に強く、さびない棒磁石を開発:塗布型磁気記録材料やミリ波吸収材料として期待(2/2 ページ)
東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授らによる共同研究グループは、磁場に強く、電流も流れない、さびないフェライト棒磁石の開発に成功した。今回の研究成果を基に、磁気力顕微鏡プローブや高周波ミリ波吸収塗料を試作し、その効果を検証した。
強磁性と強誘電性を合わせ持つ
強磁性に加えて、強誘電性の特性を合わせ持つ強誘電−強磁性体であることも、ε-Fe2O3棒磁石の強誘電ヒステリシスループを測定することで分かったという。マルチフェロイック物質と呼ばれるこうした物質は、結晶a軸方向にある磁気分極と、結晶c軸方向にある電気分極が相関することで、非線形光学効果が期待できるという。
そこで共同研究グループは、樹脂中にε-Fe2O3棒磁石を固定した光波長変換フィルムを開発した。これは磁性を利用して光波長変換を制御できる新しいタイプの非線形光学フィルムだという。
さらに共同研究グループは、ε-Fe2O3棒磁石について基礎物性の評価も行った。さまざまな分光法を用いて、75GHz〜750THzの広い周波数範囲における光学スペクトルの測定、第一原理計算、ファラデー効果などの線形磁気光学遷移、さらにはフォノンモード、キッテルモードマグノンについて調査した。
この結果、ε-Fe2O3棒磁石の長手方向(結晶a軸方向)から光が照射された場合に、可視光領域でファラデー効果が現れることや、キッテルモードマグノンの共鳴周波数が181GHzと極めて高く、光学フォノンモード周波数(2.62THz)の1/14の大きさに達していたことが分かった。観測されたキッテルモードマグノンの共鳴周波数は、大きな結晶磁気異方性に起因していることを明らかにした。この高周波ミリ波領域にある共鳴を利用して、高周波ミリ波吸収塗料の開発に成功した。
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